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湧昇(ゆうしょう)とは、海水が下から海面に向かって上昇することです。風の作用で上層の水が岸から離れたり、赤道の両側へ広がったりすると、それを補うように下から水が上がってきます。この水は比較的冷たく、栄養塩を多く含むことがあり、植物プランクトンの増殖を支えることがあります。
しくみを理解するには、「何が水を動かすか」と「上がってくる水に何が含まれるか」を分けて考えると分かりやすくなります。冷たい水が自然に浮くのではなく、風とそれに伴う循環によって、密度の大きい水も上向きに運ばれます。NOAAの湧昇の解説(英語)では、移動した表層水を下からの水が補う過程を紹介しています。
沿岸では、岸から離れる上層の水を下から補う
風は海に運動量を与えますが、風で動く海水の向きは地球の自転の影響を受けます。定常状態を仮定した古典的なエクマン理論では、風の影響を受ける層全体を通じた正味の輸送は、北半球では風の進む向きの右90°、南半球では左90°になります。これがエクマン輸送です。個々の深さの流れが、すべて風に対して直角になるという意味ではありません。NOAA/PMELのエクマン理論の解説(英語)では、前線があると、この単純化した応答からずれることも説明されています。
たとえば北米西岸のように、おおむね南北に延び、東側に陸がある北半球の海岸を考えます。岸に沿って南向きの風が吹くと、上層の水は、全体として西向き、つまり沖向きに運ばれます。その水を補うため、沿岸の斜面に沿って下から水が上がってきます。南半球で同じ向きの海岸なら、北向きの風が沖向きの輸送を起こします。
逆に上層の水が岸へ向かって運ばれると、水が集まり、下向きに移動する沈降が起こることがあります。湧昇が起きるかどうかを考えるには、風の強さだけでなく、風向、南北どちらの半球か、海岸の向きを組み合わせる必要があります。両者の違いはNOAAの沿岸湧昇の解説(英語)でも確認できます。
赤道では、海水が南北へ分かれることで湧昇が起こる
湧昇は、海岸がない場所でも起こります。太平洋赤道域の広い範囲では、貿易風に西向きの成分があり、風による上層の輸送は赤道の北側で北向き、南側で南向きになります。こうして赤道から両側へ水が離れると、下から水が供給されます。
赤道そのものではコリオリパラメーターがゼロになるため、緯度を一定とした通常のエクマン輸送の式をそのまま使うことはできません。ここで押さえたいのは、赤道を挟んだ両側で水が離れていく関係です。CroninとSprintallによる海洋上層に働く風の解説(英語)では、この発散と赤道湧昇、海面の低温域とのつながりが説明されています。
茶色の矢印は風、濃い青の矢印は上層全体の正味の輸送、緑の矢印は上昇する水を表します。Aは北半球の海岸を上から見た図と、岸に直交する断面です。Bは赤道付近を上から見た図と、南から北へ横切る断面です。上から見た図Bの破線は赤道、断面図の破線は水温躍層を表します。湧昇域では、水温躍層が海面に近い位置に現れることがあります。
湧昇の影響は、風だけでなく、供給される水の深さによっても変わります。エルニーニョ時に太平洋赤道域の東部で水温躍層が深くなると、湧昇で海面へ届く水も以前より暖かくなることがあります。この海盆規模の変化は、エルニーニョは海面下でどう見える?で詳しく説明しています。
なぜ湧昇で栄養塩が補われるのか
日光の届く海では植物プランクトンが栄養塩を取り込み、その成長によって作られた有機物の一部は下へ沈みます。有機物の分解によって栄養塩が水中へ戻ると、上層では栄養塩が少なく、その下では硝酸塩などが多い分布ができることがあります。湧昇は、この下層の水を光合成のできる深さまで運ぶ働きをします。BGC Argoの硝酸塩の解説(英語)では、物理過程による供給と生物による消費を調べるために硝酸塩を測る理由が紹介されています。
ただし、湧昇する水が海底近くの深海から来るとは限りません。沿岸や赤道の湧昇では海洋上層の水が供給される場合もあり、供給源の深さは循環や成層によって変わります。栄養塩が光合成に使われるには、湧昇や下の水との混合(英語)によって、光の届く層まで運ばれる必要があります。栄養塩を含む層が浅くなっただけでは、この供給が起きたとは判断できません。
硝酸塩が増えれば、必ず植物プランクトンの大増殖が起こるわけでもありません。光、鉄などのほかの栄養塩、動物プランクトンなどによる捕食に加え、供給されてからの時間も影響します。NASAの植物プランクトンの解説(英語)では、成長や存在量を左右する条件を確認できます。生産性の高い湧昇域は、食物網や漁業を支えることもあります。
水温躍層と硝酸塩の分布から湧昇の手掛かりを探す
下層の水の影響が強まった可能性を調べるときは、次の特徴を比較します。
| プロファイルの特徴 | 比較すること |
|---|---|
| 水温躍層が浅い | 近くで得られたプロファイルに比べ、水温が大きく変わる範囲が浅いか |
| 硝酸塩躍層が浅い | 硝酸塩が増え始める位置が海面に近いか |
| 上層に硝酸塩がある | 光の届く範囲にあり、クロロフィルにも変化が見られるか |
硝酸塩濃度が深さ方向に急変する硝酸塩躍層と、水温躍層の位置は必ずしも一致しません。また、水が上がったあとに生物が硝酸塩を取り込めば、水温・塩分には下層水の特徴が残っていても、硝酸塩濃度は変わります。
海面が冷たい理由も、湧昇だけとは限りません。大気への放熱、別の場所からの冷水の流入、下の冷たい水との混合でも水温は下がります。海の中では、水温躍層の上下動が波として伝わり、一時的に水温躍層が浅くなることもあります。また、水温や塩分の異なる水が接する「前線」のどこを観測するかによっても、水温躍層の深さは変わります。湧昇は水を上向きに運ぶ過程であるのに対し、乱流混合は層をまたぐ交換によって水の性質を混ぜ合わせる過程です。両方が同時に起こり、栄養塩の供給に関わる場合もあります。
プロファイルで分かるのは、測定した場所と時刻における水の性質です。上昇する速さや、その場所で湧昇を起こした原因を確かめるには、風、流速の測定、繰り返しの観測、循環の解析などを組み合わせます。層構造の基本は海は深くなるとどう変わる?を、硝酸塩の分布については海の硝酸塩は深さでどう変わる?を参照してください。
OceanGraphで外洋のプロファイルを比較する
Argoで調べ始めるなら、外洋の赤道域が一つの候補になります。たとえば東部太平洋の南緯2°〜北緯2°、西経120°〜110°で30日間を検索し、見つかったプロファイルの周辺へ範囲を絞ります。
- 場所と日付が近いプロファイルを複数選び、暖かい上層の厚さと、水温躍層が現れる圧力範囲を比べます。画面のθが表すポテンシャル水温に加え、塩分も確認します。
- 栄養塩を調べる場合はOnly profiles with BGCで絞り込み、各プロファイルに硝酸塩が含まれるか確認します。このフィルターは、対応するBGC変数のいずれかがあるプロファイルを抽出します。
- 硝酸塩があれば、上層の濃度と、深さ方向に濃度が大きく変わる範囲を、水温・塩分・クロロフィルと比較します。欠損値や空白は、濃度0の測定値とは区別します。
- フロートを選び、Trajectoryを有効にして、AnalyzeからView sectionを開きます。隣接するサイクルを比較するときは、フロートの漂流に伴って測定する場所と時刻の両方が変わることを考慮します。
- 風との関係を調べる場合は、別途、その海域の風のデータとプロファイルの取得時期を照合します。
国際Argo計画の観測網の説明(英語)にあるように、Argoは広い海域を覆い、標準的には約10日ごとにプロファイルを取得します。こうした観測では、海岸沿いの狭い範囲で起こる湧昇や、短期間の風の変化を捉えきれない場合があります。そうした場所では、船による断面観測や沿岸の係留観測などを組み合わせると、より直接的に調べられます。
海域とBGCの検索条件はSearch and Bookmarkガイド(英語)を、断面図の開き方と空白の扱いはTrajectory and Time-Series Vertical Sectionガイド(英語)を参照してください。見つかった分布を海洋循環と結び付けて考えるには、海流はなぜ生まれる?が役立ちます。



