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海の硝酸塩は、日光の届く表層では少なく、その下で増えることがよくあります。表層の下で濃度が急に高くなる範囲は、硝酸塩躍層(nitracline)と呼ばれます。鉛直分布は、季節や緯度、混合、湧昇、海洋循環、生物活動によって変わります。

BGC Argoの観測項目を先に把握したい場合は、BGC Argoは何を測る?を参照してください。

BGC Argoが測る硝酸塩とは

硝酸塩(NO₃⁻)は、植物プランクトンなどの一次生産者が利用する無機態窒素の一形態であり、多くの海域で重要な栄養塩です。ただし、植物プランクトンの成長は硝酸塩だけで決まるわけではなく、光、鉄、リン酸塩、ケイ酸塩、水温、生物同士の関係などの影響も受けます。

BGC Argoでは、硝酸塩濃度をµmol/kg(マイクロモル毎キログラム)の単位で推定します。国際BGC Argo計画の硝酸塩解説(英語)によると、センサーは深紫外域の光を海水に通して透過光のスペクトルを測り、データ処理では、硝酸イオンに特有の比較的弱い吸収を、より強い臭化物の吸収から分離して濃度を求めます。

鉛直方向の座標には圧力が使われます。海洋上層では圧力差1 dbarがおよそ1 mの深さの差に相当しますが、圧力と幾何学的な深さは異なります。

表層で少なく、その下で増える理由

成層した海の表層では、光を利用できる植物プランクトンが増殖に伴って硝酸塩を取り込みます。その結果生じた有機物の一部が沈降して再無機化されると、含まれていた窒素がアンモニウムとして放出される場合があります。酸素のある環境では、硝化微生物がそのアンモニウムを亜硝酸塩、さらに硝酸塩へと酸化し、これらの窒素化合物は混合、湧昇、沈み込み、水平循環によって運ばれます。このように、一つのプロファイルには、その場所で起きてきた生物過程と物理過程の両方が反映されます。

こうした過程が重なると、表層では硝酸塩濃度が低く、その下で急増して、さらに深い場所では高くなる分布がよく見られます。

光の届く表層で硝酸塩濃度が低く、硝酸塩躍層を通過すると深さとともに増える模式的な水柱とプロファイル

ただし、冬季の混合や沿岸湧昇によって表層まで硝酸塩が供給されることがあるほか、高緯度では、光やほかの栄養塩が植物プランクトンの成長を制限し、表層に硝酸塩が残る場合もあります。また、低酸素の海域では、微生物による窒素の除去が深部の硝酸塩分布に影響することもあり、硝酸塩が深くなるほど滑らかに増え続けるとは限りません。

硝酸塩躍層を一つの深さで決めない

多くの海域では、硝酸塩が少ない上層と、その下の硝酸塩濃度が高い水の間に濃度が大きく変わる範囲があり、この移行部分を硝酸塩躍層と呼びます。

ただし、硝酸塩躍層の深さを決める方法は一つではなく、すべての海域に共通して使える定義もありません。公表された研究では、特定の濃度に達した深さ(英語)、鉛直勾配がほぼ最大となる範囲(英語)、増加帯の上端と下端(英語)などが使われており、表層にも硝酸塩がある場合や、濃度が段階的に増加する場合には、同じプロファイルでも定義によって算出される深さが変わります。

探索の段階では、硝酸塩躍層を一つの数値で表す前に、次の特徴に注目すると分布を捉えやすくなります。

  • 表層からどの圧力まで低濃度が続くか
  • どの圧力から濃度が連続して増え始めるか
  • 濃度は急に増えるか、緩やかに増えるか、何段階かに分かれて増えるか
  • その下ではどの程度の濃度が続き、どの圧力まで実際の測定値があるか

解析で硝酸塩躍層の深さを比較する場合は、算出方法を定め、比較するすべてのプロファイルに無理なく適用できるか確認します。また、目視で選んだ深さは、一定の方法で算出した客観的な値と区別しなければなりません。

プロファイルを読むときの6つの確認点

1. フロートとプロファイルを特定する

WMO ID、サイクル番号、日時、位置、圧力範囲を確認したうえで、硝酸塩の測定値が実際に含まれているかを確かめます。OceanGraphの検索画面にあるOnly profiles with BGCは、対応するBGC変数を一つ以上含むプロファイルに検索結果を絞り込む機能ですが、すべての検索結果に硝酸塩があるとは限りません。

2. 原因を考える前に形を読む

測定値が得られた最も浅い位置から深いほうへ線を追い、表層の濃度、濃度が連続して増える区間、局所的な極大・極小、急な段差、欠損を調べます。わずかな増加の直後に元の濃度へ戻るなら、その変化だけを硝酸塩躍層とみなすことはできません。

3. 光とクロロフィルを重ねて考える

PARは光合成に利用できる光の量を推定する指標であり、特定の波長帯の下向き放射照度からは、その波長帯の光が深さとともにどう弱まるかを読み取れます。一方、クロロフィル蛍光からはクロロフィルa濃度を推定できますが、蛍光収率は生理状態や群集組成にも左右されるため、推定値と実際の濃度は常に一致するわけではありません。そのため、推定したクロロフィルa濃度に極大が見られても、硝酸塩の変化がその極大を生んだとも、その深さで植物プランクトンの成長速度が最大になったとも断定できません。

OceanGraphではPARをグラフで表示でき、490 nmの下向き放射照度はダウンロードしたプロファイルデータで確認できます。

海中のクロロフィルは深さでどう変わる?では、クロロフィル極大が細胞当たりの色素量、生物量、またはその両方を反映する場合がある理由を説明しています。クロロフィルを硝酸塩の消費を考える手がかりとして使う前に、色素量と生物量の違いを押さえておく必要があります。

4. 水温と塩分から物理構造を確かめる

硝酸塩の段差と水温・塩分の変化が同じ圧力付近にあれば、混合層の境界、成層、前線、由来の異なる海水などが関係している可能性があります。

5. 酸素と硝酸塩が常に逆に増減するとは考えない

有機物が再無機化されると栄養塩が水中へ戻る一方、呼吸によって酸素が消費されるため、硝酸塩の増加と酸素の減少が同時に現れる場合があります。しかし、循環や換気に加え、微生物によって窒素が海水から失われる過程も両者の関係を変えるため、両者が常に逆に増減するとは限りません。海中の酸素はどこにある?では、酸素の分布にも複数の過程が関わる理由を説明しています。

6. 前後のサイクルと比較する

一つのプロファイルは、ある時点の鉛直分布を表すものですが、複数サイクルのプロファイルを比べれば、勾配の位置が浅くなる、深くなる、勾配が弱まる、消えるといった変化を追えます。フロートの移動による違いも含まれるため、軌跡と合わせて読み取ります。

よく見られる三つの形と解釈の限界

表層では硝酸塩が少なく、深部で増える分布

強く成層した貧栄養海域でよく見られ、表層で生物が硝酸塩を取り込み、下層からの供給が限られることが関係している可能性があります。しかし、この分布だけで、植物プランクトンの成長がその時点で窒素制限を受けていたと証明したり、基礎生産量を求めたりすることはできません。

表層まで硝酸塩がある形

混合、湧昇、最近の栄養塩供給、その海域にある水塊の性質などが考えられます。表層の硝酸塩濃度が高くても、植物プランクトンの成長が光やほかの栄養塩によって制限されていたり、硝酸塩が供給されてから生物が応答するまでに時間がかかったりするため、現在の基礎生産が高いとは限りません。

段差や逆転、複数の勾配がある形

複数の水塊、密度面の上下動、前線、渦、測定上の問題など、いくつもの原因が考えられます。水温・塩分、前後のプロファイル、品質情報を照合する前に、複雑な形を平滑化して消したり、生物過程だけに結び付けたりしないよう注意します。

補正済み変数、品質情報、欠損を確認する

光学センサーによる硝酸塩測定には、センサー固有のずれ(オフセット)のほか、センサーやデータ処理に伴う不確実性が含まれる場合があり、BGC Argo硝酸塩品質管理マニュアル(英語)には、国際計画で使われる検査と補正がまとめられています。定量解析へ進む際には、最新版のマニュアルを参照し、Argoの元データで変数のデータモードや品質管理フラグも確認してください。

OceanGraphは、補正済みの硝酸塩変数に利用可能な測定値があり、対応する品質情報も利用できる場合は、その変数を優先して使います。補正済み変数を利用できない場合は生データを使い、採用した変数のうち、品質管理フラグが4または9の値を除外しますが、それ以外のフラグがすべて同じ品質を意味するわけではありません。Data Filtering Policy(英語)では公開対象の選び方を確認できます。

ゼロ付近では、センサーの不確実性や補正によって小さな負の値が現れる場合があります。ただし、硝酸塩が負の濃度で存在するわけではないため、このような値が出た場合は、測定の不確実性や品質管理を確認します。また、欠損値を表すnullも、濃度0の測定値とは区別します。

時系列鉛直断面を見るときは、補間と空白の意味にも注意が必要です。OceanGraphが鉛直方向へ補間するのは、各プロファイルで利用可能な値の間だけであり、欠けたサイクルをまたいだ補間は行いません。空白は、測定値が欠けている場合、品質処理で除外された場合、隣り合うサイクルの値が断面を描くには足りない場合などに生じます。詳しくはApp Guideの制約事項(英語)を参照してください。

OceanGraphで硝酸塩の鉛直構造を調べる

色分けされた断面図だけで判断せず、個々のプロファイルでも確かめるため、次の順序で確認します。

  1. 地域と期間を絞って検索し、Only profiles with BGCを使って候補を減らします。
  2. プロファイルを開き、硝酸塩の測定値があることと、WMO ID、サイクル番号、日時、位置、圧力範囲を確認します。
  3. 利用できる水温、塩分、クロロフィル、PARを硝酸塩と比較します。
  4. Trajectoryを有効にし、AnalyzeからView sectionを選んで、公開されているサイクル間の変化を表示します。
  5. 鋭い境界、周囲とは異なる局所的な変化、空白を見つけたら、該当する個別プロファイルも確認します。

BGC検索とプロファイル操作についてはSearch and Bookmarkガイド(英語)を、時系列鉛直断面の開き方と補間範囲についてはTrajectory and Time-Series Vertical Sectionガイド(英語)を参照してください。

参考資料