この記事の目次
海の中で水温や塩分がどう変わるかを測るCore Argoに、酸素、栄養塩、炭酸系、生物、粒子、光に関するセンサーを加えたものがBGC Argoです。これにより、海洋の物理構造だけでなく、生物活動や化学環境とのつながりまで調べられるようになります。
ただし、BGC Argoフロートなら6種類すべてを測っている、という意味ではありません。また、センサーが光合成や呼吸といった過程を直接測るわけでもありません。得られた値を水温・塩分、場所、時刻、品質情報と組み合わせ、起きていることを一つずつ絞り込んでいきます。
この記事では、国際BGC Argo計画が定める6つの観測項目を整理し、OceanGraphに収録されている変数との対応や、プロファイルを読む順序を説明します。
Argoそのものから知りたい場合は、先にArgoフロートとは?海洋観測データの完全ガイドを参照してください。
Core ArgoとBGC Argoの役割
Core Argoが測る基本項目は圧力、水温、塩分であり、そこから、成層の強さ、混合層、水温躍層、水塊など、海の物理構造を調べられます。
BGC Argoは、これらの基本項目に生物地球化学・光学センサーを追加します。国際計画では、観測項目を次の6つに分けています。
- 溶存酸素
- 硝酸塩
- pH
- クロロフィルa
- 懸濁粒子
- 下向き放射照度
ただし、実際の海では、物理過程と生物地球化学過程が密接に関わっています。水温と塩分は、海水の密度や混合だけでなく、気体の溶けやすさや栄養塩の供給にも関わります。BGC変数を読むときにも、物理プロファイルは欠かせない手がかりです。
6つの観測項目から分かること
| 観測項目 | 主な測定方法 | 読み取る手がかり |
|---|---|---|
| 溶存酸素 | オプトードなどの光学式酸素センサー | 換気、大気との交換、生物による生産・消費、水塊の由来や移動 |
| 硝酸塩 | 紫外線の吸収 | 栄養塩の鉛直分布、取り込み、再無機化、輸送 |
| pH | イオン感応型の半導体センサー | 海水の酸塩基状態と炭酸系の一部 |
| クロロフィルa | 蛍光 | 光合成色素の鉛直分布と、植物プランクトン量の手がかり |
| 懸濁粒子 | 光学後方散乱 | 粒子量と、粒子状有機物・植物プランクトン炭素量の手がかり |
| 下向き放射照度 | 特定波長または光合成有効放射を測る放射計 | 光が深さとともに弱まる様子、水の濁り、観測時の光環境 |
ただし、この表だけで解釈を決めることはできません。たとえば、酸素が少ない原因には、生物による消費だけでなく、換気の弱さや別の場所から運ばれてきた水塊も考えられますし、クロロフィル蛍光が高くても、それだけで基礎生産が活発だとは断定できません。
溶存酸素
溶存酸素は、大気とのガス交換、溶解度、光合成、呼吸、混合、海洋循環の影響を受けます。物理環境と生物地球化学環境の関係が表れやすく、BGC Argoを学び始める際に理解しておきたい変数です。
鉛直分布の読み方はBGC Argoの溶存酸素プロファイルを読み解く、単位をまたいで比較するときの注意点は海洋データの溶存酸素単位を理解するで詳しく解説しています。
硝酸塩
硝酸塩は、植物プランクトンが成長するために使う主要な栄養塩の一つです。表層で少なく、その下で増えるプロファイルはよく見られますが、濃度分布は生物による取り込みだけで決まるわけではなく、再無機化、鉛直輸送、水塊の移動や混合も関わります。
硝酸塩濃度が高い深度を見つけたら、クロロフィル、光、水温、塩分の変化と照らし合わせましょう。
pH
海水のpHは海洋炭酸系を表す変数の一つであり、鉛直プロファイルから酸塩基状態の違いを調べられます。ただし、pHだけで炭酸系のすべてが分かるわけではなく、小さな数値差にも意味があるため、使用しているpHスケール、センサーの較正、補正済み変数、品質管理フラグを確認してから定量的に扱う必要があります。
クロロフィルa
BGC Argoでは通常、蛍光からクロロフィルa濃度を推定するため、海色衛星が主に捉える海面付近だけでなく、海中の鉛直分布も測れます。
一方、蛍光は植物プランクトンの細胞数、炭素量、光合成速度を直接測った値ではありません。生物群集、細胞の状態、直前に受けた光、センサー処理によって関係が変わります。プロファイルの読み方は海中のクロロフィルは深さでどう変わる?で取り上げます。
懸濁粒子と後方散乱
後方散乱センサーは、海中の粒子に当たってセンサー側へ戻る光を測り、OceanGraphでは、波長700 nmの粒子後方散乱係数をbbp700として扱います。
bbp700は、粒子量や植物プランクトン炭素量の指標として利用されます。クロロフィルと一緒に見ると、色素だけが増えているのか、粒子量も増えているのかを考える手がかりになります。ただし、後方散乱には植物プランクトン以外の粒子も含まれるため、これだけで原因を決めることはできません。
下向き放射照度とPAR
下向き放射照度は海中を下向きに進む光の強さであり、特定の波長を測るセンサーに加え、光合成に使われる波長帯をまとめた光合成有効放射(PAR)を測るセンサーがあります。
光の値は、深さだけでなく、時刻、雲、太陽高度、水の濁り、粒子量にも左右されます。1回の観測で得たプロファイルは、その水柱と観測時の光条件を組み合わせたスナップショットです。
OceanGraphではなぜ7変数なのか
国際計画の6項目は、測定の目的に基づく分類です。OceanGraphの公開データには、グラフで選べる6項目に加えて、検索・ダウンロード用に保持している490 nmの下向き放射照度を含む、7つのBGCフィールドがあります。
- 溶存酸素
- クロロフィル
- 硝酸塩
- 粒子後方散乱係数bbp700
- 現場条件でのpH(全スケール)
- 波長490 nmの下向き放射照度
- 光合成有効放射(PAR)
最後の2つはいずれも「下向き放射照度」に含まれるため、フィールドは7つでも、国際計画上の分類は6項目です。
OceanGraphの閲覧画面で表示できるBGC項目は、溶存酸素、クロロフィル、硝酸塩、bbp700、pH、PARの6つです。490 nmの下向き放射照度は検索・ダウンロード用データに含まれますが、閲覧画面では表示対象外です。値がないところは欠損のまま扱い、0では埋めません。
BGCプロファイルでも、すべての変数がそろうとは限らない
一台のフロートに搭載されるのはBGCセンサー一式ではなく、その一部であることがあり、同じフロートでも、センサーごとに取得を始める時期や終了する時期が異なる場合があります。その結果、次のような違いが生じます。
- BGC検索で見つけたプロファイルに、クロロフィルや硝酸塩がない
- あるサイクルには値があり、別のサイクルにはない
- 変数ごとに利用できる圧力範囲が違う
- 同じプロファイル内でも、変数ごとに品質管理や補正の状況が違う
OceanGraphのOnly profiles with BGCを使うと、BGC変数を一つ以上含むプロファイルに絞り込めます。必要な変数が含まれているかは、プロファイルを開くか、データをダウンロードして個別に確認してください。
本格的な解析へ進む場合は、Argo Data Managementの文書一覧にあるBGC共通の品質管理手順と、変数別のマニュアルも確認してください。
プロファイルを読む順序
慣れないうちは、毎回同じ順番で確認すると見落としを減らせます。
- フロート、サイクル、場所、日付、収録変数を確かめる。
- 水温と塩分を先に読む。混合層、水温躍層、塩分躍層、水塊の変化を探します。
- BGC変数を一つずつ見る。極大・極小、勾配、欠損、実際に測れている圧力範囲を確認します。
- 関係する変数を組み合わせる。クロロフィルならbbp700と光、硝酸塩ならクロロフィルと光、酸素なら水温・塩分を重ねて考えます。
- 前後のサイクルと比べる。一度だけの鋭い変化より、繰り返し現れる構造のほうが解釈しやすくなります。
- 定量解析の前に品質と処理履歴を確認する。補正済み変数が提供されていれば優先し、欠損値と実測の0を区別します。
プロファイルの探し方はSearch and Bookmark(英語)、ダウンロードしたJSONを比較する方法はAnalysis Labの鉛直プロファイル(英語)にまとまっています。
場所や期間、WMO IDを使った絞り込みから確認したい場合は、場所・時刻・WMO IDからArgoフロートのプロファイルを探す方法も参照してください。
BGCプロファイルから言えること、言えないこと
BGCプロファイルは、次のような鉛直構造を調べるのに向いています。
- 酸素がどの深さから減り始めるか
- クロロフィルの極大が表層か、その下にあるか
- 上層より下で硝酸塩がどこから増えるか
- クロロフィルと粒子後方散乱が同じ深さで変化するか
- 光が深さとともにどの程度弱くなるか
一方、一つのプロファイルだけから原因を断定することはできません。生物活動と移流の寄与を分けたり、特定の水塊だと判断したり、指標値を生物量や反応速度へ読み替えたりするには、追加の情報が必要です。
したがって、まずプロファイルに現れた形を示し、関係する変数と前後のサイクルを比較したうえで、考えられる原因を絞り込むには何が足りないかを整理します。この順序なら、データが示す範囲を越えずに解釈できます。
まとめ
- BGC Argoは、Core Argoの物理観測に6種類の生物地球化学・光学観測を加えます。
- センサーが測るのは酸素、硝酸塩、pH、蛍光、後方散乱、下向きの光であり、背後の過程そのものではありません。
- OceanGraphの7フィールドが6分類に対応するのは、490 nmの放射照度とPARがともに光の観測だからです。
- BGCプロファイルでも搭載センサーは一部だけの場合があり、欠損値は0として扱えません。
- 水温・塩分、品質情報、前後のサイクルまで確認すると、過剰な解釈を避けられます。


