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酸素のデータセットが2つ手元にあり、片方は4.6、もう片方は200という値が並んでいるとします。数値は大きく異なりますが、前者がmL/L、後者がµmol/kgなら、どちらも似た海水を表している可能性があります。ただし、両者を結ぶ係数は定数ではなく、その一部は海水の水温と塩分に依存します。
海洋データでよく使われる濃度の単位は3つありますが、さらに、4つ目の単位のように見えて実はまったく別の量であるパーセント表示もあります。そこで、換算方法と海水の密度が必要になる理由を整理したうえで、もっとも影響の大きい誤りである、酸素飽和度を濃度の単位のように扱う問題を取り上げます。
単位ではなく酸素の鉛直分布そのものを知りたい場合は、海の中の酸素はどこに多い?深さで変わる理由から読むことをおすすめします。
体積基準と質量基準
酸素濃度はいずれも酸素の量を海水の量で割ったものですが、その両方の測り方が異なるため、複数の単位があります。
体積基準の単位はいずれも海水1 Lあたりで表し、mL/Lは溶けている酸素が標準状態で気体として占める体積、mg/Lはその質量、µmol/Lは物質量を示します。酸素の数え方は異なっても海水の測り方は同じなので、この3つは固定した係数で相互に換算できます。
これに対して、質量基準の単位は海水1 kgあたりで表し、実務で目にするのはµmol/kgです。海洋データの単位換算が固定係数を使うだけでは済まないのは、この違いがあるためです。

換算式
体積基準の単位どうしの換算であれば、係数は定数です。
| 変換前 | 変換後 | 掛ける値 |
|---|---|---|
| mL/L | µmol/L | 44.6596 |
| mg/L | µmol/L | 31.2512 |
| mL/L | mg/L | 1.4290 |
44.6596は標準状態における酸素のモル体積22.3916 L/molに由来し、海水1 Lあたり気体1 mLは、1000 ÷ 22.3916 µmolにあたります。一方、31.2512はO₂のモル質量31.9988 g/molによるもので、どちらの係数も酸素の性質だけで決まり、海水には依存しません。
質量基準の単位に換算するときにだけ、海水の性質が関わってきます。
O2 [µmol/kg] = O2 [µmol/L] / ((1000 + σ0) / 1000)
ここでσ0は0 dbar基準のポテンシャル密度偏差(kg/m³)で、その試料の塩分と水温から計算します。Argoの酸素データ処理の文書では、DOXYについてこの換算が定められています。WOCEやGO-SHIPの観測記録でも同じ取り決めが使われています。
なぜ密度で割る必要があるのか
外洋の海水の密度はσ0でおよそ22〜28 kg/m³の範囲にあるため、µmol/Lとµmol/kgの差は約2.2〜2.8%です。ここから2つのことが言えます。
一つは、この計算を省けないことです。2.5%のずれは酸素の多い水では約5 µmol/kgにあたり、補正済みのArgo酸素データに期待される精度がおおむね3 µmol/kgであることを考えると、それと同程度か上回る大きさです。したがって、単位を混ぜると、検出しようとしているシグナルと同じ大きさの誤差が気づかないうちに入り込みます。
もう一つは、近似で済む場面も多いことです。試料ごとに密度を計算せず代表値を一つ使っても、現実的な範囲では差は1%を十分下回り、たとえば205.4 µmol/Lは、σ0 = 22なら201.0 µmol/kg、σ0 = 27なら200.0 µmol/kgになります。そのため、論文の図と突き合わせて確認する程度なら1.025で割れば足りますが、解析や公表に使う値であれば、同じプロファイルに収録された塩分と水温から密度を計算してください。
質量基準での報告がWOCE期に観測の標準として定着したのも、海水の質量は、その水塊が別の圧力のもとへ運ばれても変わらないためです。そのためµmol/kgは水塊に沿って保存されますが、µmol/Lはそうなりません。
濃度と酸素飽和度は別の量
もっとも誤解が多いのは酸素飽和度で、濃度の単位と並べて示されることが多いため、単位の一つのように見えてしまいます。
濃度が水の中に酸素がどれだけあるかを示すのに対し、酸素飽和度は、その水温と塩分のもとで1気圧の大気と平衡にあるとき水が保持できる量と、実際の濃度を比べたものです。したがって、両者の変換には単位換算ではなく溶解度の式が必要であり、実際には、Argoや主要な海洋学ツールボックスに実装されているGarcia and Gordonの近似式が使われます。
この区別が重要な理由は、冒頭の図の右側から読み取れます。測定値200 µmol/kgは、酸素をあまり保持できない25°Cの水では96%の酸素飽和度ですが、同じ濃度でも5°Cの水では65%にしかなりません。つまり、濃度として読めば2つの試料は同じですが、酸素飽和度として読めば、一方は大気とほぼ平衡にあるのに対し、もう一方は平衡濃度を大きく下回っています。
どちらか一方が正しいのではなく、知りたいことに応じて使い分けます。生物が呼吸などで実際に消費する水中の酸素量を表すのは濃度であるのに対し、その水が最近まで換気を受けていたかどうかを示すのは酸素飽和度です。したがって、片方の値にもう一方の名前を付けてしまうと、どちらの意味でも使えないデータになります。
3つ目の量として、センサーの資料や一部のBGCの処理過程では酸素分圧が登場します。これは光学式センサーが実際に検出している、濃度へ変換する前の量であり、データセットの酸素がmbarやhPaで与えられていれば酸素分圧を表しています。濃度にするには、酸素飽和度と同じ溶解度の計算が必要です。
Argoが使っている単位
ArgoのDOXY変数の公式な単位はµmol/kgですが、これはセンサーの出力そのものではなく処理上の取り決めです。Aanderaaの光学式センサーはµmol/L、Sea-BirdのセンサーはmL/Lで出力するため、データセンターが値をプロファイルデータに収録する前に換算しています。
ここから実務上の注意が2つ出てきます。GDACのファイルからDOXYを読んだ場合、密度による換算はすでに適用されているので、二重に適用してはいけません。また、Argoの酸素を船舶観測のデータと比べるときは、単位が一致していると仮定する前に相手側を確認してください。WOCE以前の古い観測データは、mL/Lで保管されていることがよくあります。
OceanGraphは溶存酸素をµmol/kgで表示し、Argoの取り決めに合わせています。プロファイルごとに表示される亜表層酸素極大の値も同じ単位です。詳細はApp GuideのSubsurface Oxygen Maximum (SOM)(英語)にあります。
データセットの単位を見分ける
ヘッダーがはっきりしない場合、値の範囲でほぼ判断できます。外洋の海水であれば次のとおりです。
| 単位 | 外洋での典型的な範囲 |
|---|---|
| µmol/kg | 0〜350 |
| µmol/L | 0〜360 |
| mL/L | 0〜8 |
| mg/L | 0〜11.5 |
区別が難しいのは、範囲がほぼ完全に重なるµmol/kgとµmol/Lであり、数値ではなくメタデータを確認しなければ判断できません。ファイルにkgあたりかLあたりかを示さずµmolとだけ書かれている場合は、推測せず未確定として扱ってください。2.5%の違いは見た目には現れにくい一方、その後の計算すべてに残ります。
同じことは、これらの値を先へ渡す仕組みを作るときにも当てはまります。単位が表示用の文字列ではなくデータの契約に属する理由は、海洋データの意味を保つWebアプリ設計で扱っています。
よくある誤り
密度による換算を二重に適用する。すでにµmol/kgで届いた値に換算は不要です。もう一度割ると、約2.5%低い値になります。査読を通り抜けてしまう程度の大きさです。
44.6596だけでmL/Lからµmol/kgへ換算する。この係数で得られるのはµmol/Lです。密度で割る計算がまだ残っています。
値が6か7だからmg/Lだと決めつける。淡水や養殖のデータではmg/Lが標準で、6〜7は典型的な値です。海水では、6〜7はmL/Lでもありえます。約1.43倍離れた別の量です。
両方のヘッダーを確認せずに出典の違うプロファイルを比べる。どの深さでもおよそ2.5%ずれている2つのデータセットは、互いを裏付けているのではなく、同じ水を別の基準で示している場合がほとんどです。このずれは密度に従うので、浅いところではやや小さく、深いところではやや大きくなります。
よくある質問
mL/Lからµmol/kgへはどう換算しますか
44.6596を掛けてµmol/Lにし、次に(1000 + σ0)/1000で割ります。σ0(kg/m³)はその試料の塩分と水温から計算します。おおまかな確認であれば、2つ目の計算を1.025で割る形に置き換えても、誤差は1%を十分下回ります。
なぜ海洋学ではmg/Lではなくµmol/kgを使うのですか
海水1 kgは別の深さへ運ばれても1 kgのままですが、1 Lはそうなりません。質量基準の濃度は水塊に沿って保存されるので、深さが違っても、別の観測航海のデータどうしでも比較できます。
µmol/kgとµMは同じですか
違います。µMはLあたりのµmol、つまり体積基準です。両者は海水の密度に相当する約2.5%だけ異なります。
酸素飽和度からµmol/kgへ換算できますか
できますが、百分率だけでなく試料の水温と塩分が必要です。飽和の割合に、その水温と塩分について1気圧で計算した平衡溶解度を掛けます。この2つの変数がなければ、換算は定義できません。
Argoの酸素から何かを導出するとき、どの単位で記録すべきですか
µmol/kgのままにしてください。元データの単位であり、不要な換算を避けられ、あなたの結果をArgoと比べる人が想定している単位でもあります。プロファイルの形そのものの読み方は、BGC Argoの溶存酸素プロファイルを読み解くで扱っています。

