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海のクロロフィル濃度は、光が最も強い表層で必ずしも最大になるとは限らず、成層した海では、表面から数十m、場所によっては100 m以上も下にはっきりした極大が現れることがあります。これが深層クロロフィル極大(deep chlorophyll maximum; DCM)であり、同じ現象は亜表層クロロフィル極大(subsurface chlorophyll maximum; SCM)とも呼ばれます。
グラフ上の極大を見つけるのは難しくありませんが、問題は、その極大が何を表しているかです。深い場所で植物プランクトンの生物量が増えた場合だけでなく、弱い光に順応した細胞が体内のクロロフィルを増やした場合にも同じような極大ができるため、クロロフィルだけでは両者を区別できません。
この記事では、BGC Argoのクロロフィル値がどのように測られるかを確認し、深層クロロフィル極大を粒子後方散乱、光、硝酸塩、水温・塩分と組み合わせて読む方法を説明します。
BGCセンサー全体の役割は、先にBGC Argoは何を測る?で確認できます。
BGC Argoのクロロフィル値は何を測っているのか
BGC Argoフロートは、センサーから光を当てたときにクロロフィル分子が発する蛍光を蛍光光度計で測り、クロロフィルaを推定します。値は通常、mg/m³で表します。
クロロフィルaは、多くの海洋植物プランクトンが光合成に使う主要な色素です。そのため、蛍光から得たプロファイルは、植物プランクトンの鉛直分布を調べる有力な手がかりになります。ただし、次の量を直接測っているわけではありません。
- 細胞数
- 植物プランクトンの炭素量
- 種や群集の構成
- 光合成速度や基礎生産速度
さらに、細胞あたりの色素量は光環境や生理状態によって変わり、蛍光と実際のクロロフィル濃度との関係も、生物群集、センサーの較正、データ処理などの影響を受けます。測定原理と注意点は、BGC Argoのクロロフィル解説(英語)にもまとめられています。
クロロフィルプロファイルの主な形
プロファイルの形は海域や季節によって変わりますが、代表的な形は次のように整理できます。
表層で高く、深さとともに下がる
明るい表層に植物プランクトンが多く、下へ行くほどクロロフィルが減る形です。混合層内に比較的均一に分布し、その下で急に低下する場合もあります。
ただし、日中の強い光を受けた植物プランクトンでは、光から身を守る反応によって蛍光が一時的に弱くなることがあるため、表面付近の低下がすべて生物量の減少を意味するわけではありません。この反応は非光化学的消光(NPQ)と呼ばれ、適切に補正しなければ、表面が実際より低く見える可能性があります。
表面より深い場所に極大がある
表層の下に局所的な極大が現れる形を深層クロロフィル極大と呼びますが、その深さや厚さは海域・季節・成層状態で変わるため、全球共通の深度しきい値はありません。
光がまだ残り、表層で使い切られた栄養塩が下から供給される境界付近は、クロロフィルが集まりやすい場所です。ただし、この段階で確認できたのは「色素の極大」であって、「生物量の極大」とは限りません。
極大が弱い、幅が広い、または不規則
一方、明瞭な極大がないプロファイルも珍しくなく、全体的に低い、厚い層に広がる、小さな起伏がいくつもある、途中に欠損がある、といった形を示します。
測定点が途切れている場所を、滑らかな曲線が続いているものとして読まないようにしましょう。どの圧力に実測値があるかを先に確かめます。
深層クロロフィル極大はなぜできるのか
上層の海では深くなるほど光が弱まる一方、表層で消費された栄養塩はその下で増えることがあります。また、成層が強ければ栄養塩は上へ運ばれにくくなりますが、混合が起これば明るい層へ供給されます。
DCMは、こうした光と栄養塩の鉛直分布が交わる付近に現れることがあります。その形成には、次のような過程が一つまたは複数関わります。
- 深い場所での植物プランクトンの増殖・集積
- 暗い環境へ順応するための、細胞あたりクロロフィル量の増加
- 栄養塩供給の鉛直変化
- 混合、沈降、浮力調節、水平輸送
- 植物プランクトン群集の変化
どの過程が重要かは、海域や季節によって変わります。まずはクロロフィルの極大が見られたという事実を示し、原因の議論は別の変数を確認してから進めるのが安全です。
クロロフィルの極大は、生物量の極大とは限らない
DCMを解釈するときに重要なのは、深い場所で色素の割合が増えたのか、粒子としての生物量も増えたのかという点です。
代表的な状態は、次の二つに整理できます。
- 深層光順応極大(DAM):弱い光に順応した細胞が、炭素量に対するクロロフィル量を増やす。クロロフィル蛍光は極大になるが、生物量の極大は伴わない。
- 深層生物量極大(DBM):クロロフィルだけでなく、植物プランクトン炭素量や粒子量も同じ深さで増える。
実際の海はこの二つの中間であることもあるため、BGC Argoを使った研究では、クロロフィルだけで判断せず、粒子後方散乱と組み合わせてDAMとDBMを分けています(Cornecほか、2021年、英語)。
bbp700を二つ目の手がかりにする
bbp700を測定できるセンサーを搭載したフロートでは、OceanGraphに波長700 nmの粒子後方散乱係数bbp700が収録されており、粒子量や植物プランクトン炭素量の指標として利用できます。
クロロフィルとbbp700を並べ、次のように考えます。
- クロロフィルだけが増え、bbp700に同じ極大がないなら、光順応が寄与した可能性がある。
- クロロフィルとbbp700が近い深さで増えるなら、生物量の極大を示している可能性が高まる。
- 二つの極大の深さや形がずれるなら、複数の過程、粒子の種類、センサー特性、利用できる圧力範囲の違いを検討する。
この比較だけで自動的に判定できるわけではありません。bbp700には植物プランクトン以外の粒子も反映されるため、品質情報と周辺変数を含めて判断します。
光、硝酸塩、物理構造を重ねる
クロロフィルとbbp700だけで結論を急がず、同じプロファイルにある別の変数も確認します。
PARまたは下向き放射照度
光のプロファイルからは、海中で照度がどの程度の速さで弱まるかが分かります。ほとんど光が届かない層のすぐ上にあるDCMと、比較的明るい混合層内の極大とでは、背景が異なります。
ただし、一回の光プロファイルは時刻、雲、太陽高度、粒子量の影響も受け、一日の平均的な光環境を示すものではないため、解釈には注意が必要です。
硝酸塩
硝酸塩プロファイルからは、硝酸塩の少ない上層から、その下の比較的濃度が高い層へ変わる深さが分かることがあります。DCMがその境界付近にあれば、光と栄養塩の両方が関係する深さにある可能性があります。ただし、同じ深さにあるだけでは栄養塩制限や供給量まで証明できません。
水温と塩分
水温・塩分からは、混合層、成層、水塊の変化を確認できます。クロロフィルの極大が物理的な境界に重なる場合、局所的な増殖だけでなく、鉛直安定度や輸送の影響も考える必要があります。
物理プロファイルの基本は、海洋の水温・塩分プロファイルを読み解くで確認できます。
OceanGraphでクロロフィルを調べる手順
- BGCフロートが含まれる海域と期間を検索する。
- Only profiles with BGCを有効にして候補を絞る。
- プロファイルを開き、クロロフィルが収録されているか確認する。BGCフィルターを有効にしても、クロロフィルが収録されたプロファイルだけに絞り込まれるわけではありません。
- クロロフィルを表示し、亜表層の極大の深さ、幅、周囲との差を見る。
- 利用できれば、bbp700、硝酸塩、PAR、水温、塩分と比べる。
- 前後のサイクルへ移動し、極大が続くか、深くなるか、浅くなるか、消えるかを追う。
OceanGraphはプロファイルの探索と比較を支援します。DCMかどうか、どの過程が関わるかは、周辺変数や前後のサイクルを含めて判断します。
操作方法はSearch and Bookmark(英語)とAnalysis Labの鉛直プロファイル(英語)を参照してください。
同じフロートの季節変化と、ある時期の地域差を分けて調べるには、場所・時刻・WMO IDからArgoフロートのプロファイルを探す方法の検索手順も役立ちます。
よくある読み違い
クロロフィルをそのまま生物量と呼ぶ
クロロフィルは色素の指標なので、まずは「クロロフィル極大」と呼び、「生物量極大」と判断するのは別の根拠を確認してからにします。
極大を「生産が最も高い深さ」とみなす
濃度の極大と、単位時間あたりの生産速度は別の量です。生産速度には光環境や生理状態なども関わります。
日中の非光化学的消光を無視する
強い光によって表層の蛍光が弱まると、亜表層の極大が実際以上に目立つ場合があります。
欠損を低濃度として読む
値がない場所は、測定値がないか、品質管理上利用できる値がないという意味であり、クロロフィルが0という意味ではありません。
一つのプロファイルだけで原因を決める
前後のサイクルと周辺変数を確認します。同じ構造が繰り返され、別の指標とも対応していれば、その解釈を支持する材料が増えます。
DCMの報告例
観測事実と解釈を分けると、読み手が判断しやすくなります。たとえば、次のように書けます。
蛍光から推定したクロロフィルは、約80 dbarに亜表層極大を示した。bbp700には同程度の明瞭な極大が見られないため、光順応が寄与した可能性がある。ただし、このプロファイルだけでは生物量極大の有無を判断できない。
極大の位置、比較した変数、妥当な説明、残る不確実性を順に示せば、データの範囲を越えた断定を避けられます。
まとめ
- BGC Argoのクロロフィルは、通常は蛍光から推定した値であり、生物量や基礎生産速度を直接測っているわけではありません。
- 深層クロロフィル極大は、深い場所にある色素の極大であって、必ずしも生物量の極大ではありません。
- bbp700は、光順応と粒子・生物量の増加を分けて考える手がかりになりますが、これも指標の一つです。
- 光、硝酸塩、水温、塩分、品質情報、前後のサイクルを組み合わせると、解釈の根拠が強くなります。


