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台風が通過した海域では、暖かい表層水と下の冷たい水が混ざることや、深い水が湧き上がること、海から大気へ熱が逃げることによって、海面水温が下がる場合があります。台風の経路に沿って残るこの低温域を、英語ではcold wakeと呼びます。一方、海面下には、表層から熱が運ばれて水温が上がる層もあります。

台風による変化を調べるには、通過前後の海面水温に加え、水温がほぼ一様な上層の厚さ、その下にある水温躍層の水温勾配、塩分の鉛直分布を確認します。この見方はハリケーンなど、ほかの熱帯低気圧にも共通します。プロファイルの軸や基本的な形は、海は深くなるとどう変わる?で確認できます。

海面が冷える三つの仕組み

台風の強い風は海に流れと乱流を起こします。乱流によって上層と下層が混ざり、冷たい水が暖かい上層へ取り込まれると、表層の水温が下がるとともに、ほぼ一様な層が深くまで広がることがあります。こうして下の水を取り込む過程を、エントレインメントと呼びます。

これに対して、湧昇は深い水が上向きに移動する現象です。台風の風で表層水が周囲へ運ばれると、それを補うように下から水が上がり、層全体が混ざらなくても、ある深さの水温が下がることがあります。また、海面での蒸発によって潜熱が失われるなど、大気への熱損失も冷却に関わります。これらの仕組みは、気象庁の台風による水温低下で説明されています。

どの過程がどれほど寄与するかは、台風や海の状態によって異なります。海面の水温低下だけでは、大気へ失われた熱量と海中で移動した熱量を区別して見積もることはできません。

海面下では水温が上がることもある

薄い暖水層の下に水温躍層がある、単純な状態を考えてみましょう。混合が進むと、上層の水温は下がりますが、水温がほぼ一様な層は厚くなります。もとの混合層のすぐ下では、表層から熱が運ばれることで、かえって暖まる場合があります。

混合前には暖かく浅い一様層があり、混合後にはそれより冷たい一様層が深くまで広がって、もとの混合層の下では水温が上がる様子を示す模式プロファイル

破線は混合前、実線は混合後の水温分布を表します。

HuほかによるArgoデータの解析(英語)でも、熱帯低気圧に伴う冷却に加え、混合による海面下の昇温が報告されています。浅い測定点だけを見ていると、こうした深さによる違いを見落としてしまいます。

プロファイルを比べるときは、次の特徴に注目します。

プロファイルの特徴考えられる原因と確認点
水温がほぼ一様な層が厚くなった混合が深くまで達した可能性がある。塩分も確認する。
水温勾配をほぼ保ったまま、水温躍層が浅くなった水が鉛直方向に移動し、同じ深さの水温が下がった可能性がある。
上層は冷え、そのすぐ下は暖まった熱が下方へ運ばれた可能性がある。
浅い層から深い層にかけて、塩分に大きな差があるフロートが別の水塊へ移動したために、値が変わった可能性がある。

これらの特徴は台風以外でも現れるため、原因を判断するには、ほかの測定値とも照らし合わせる必要があります。混合層深度(MLD)の解説も参照し、MLDの値とプロファイル全体の形を併せて確認します。

台風ごとに冷え方が違う理由

同じような風が吹いても、薄い暖水層のすぐ下に冷水がある海と、深くまで暖水が続く海では、混合による海面水温の変化が異なります。冷たい水を取り込みやすい構造なら、海面は大きく冷える可能性があります。台風の移動速度、風の強さ、大きさも関わるため、通過前の海面水温や一定の深さまでの平均水温だけでは、通過後の海の変化を十分に説明できません。この関係は、NOAA/AOMLの熱帯低気圧と海洋構造の解説(英語)で紹介されています。

塩分にも目を向ける必要があります。表層の塩分が低いと、上下の水温差が小さくても表層の密度が低くなり、混ざりにくい構造ができるためです。水温だけから「ここまで混ざっている」と判断すると、混合層を深く見積もることがあります。MLDの変化を解釈するときも、水温と塩分の両方を確認しましょう。

海中での熱の移動と海からの熱損失の違いは、海面水温だけでは海の温暖化が分からない理由でも説明しています。台風に伴う熱収支を見積もるには、熱量を積算する深さの範囲を定め、輸送や海面での熱交換を考慮します。

Argoを使った研究では何が分かったか

湊信也による2013年の気象庁『測候時報』掲載論文では、2000〜2010年に北西太平洋で発生した253個の台風について、進路近傍の約4,400個のArgoプロファイルが解析されています。台風の位置と進行方向を基準に測定値を重ねることで、海面下まで及ぶ低温化や、台風の移動速度・観測緯度に応じた違いが調べられました。一方、個々の測定値には大きなばらつきもありました。

通過前後のプロファイルを探して比べる

過去の台風を一つ選び、たとえば気象庁のベストトラック資料(英語)で進路と時刻を確認してから、OceanGraphで検索する海域と期間を絞ります。

  1. 選んだ海域と期間を検索し、台風通過の前と後にプロファイルがあるフロートを探します。検索の使い分けは、場所・時刻・WMO IDからArgoプロファイルを探す方法を参照してください。
  2. 各プロファイルの観測日時(UTC)と位置を、台風の通過時刻・進路と照らし合わせます。WMO IDとサイクル番号から、同じフロートのどの観測に当たるかも確認します。
  3. プロファイルのグラフを開き、上層とその下の境界を含む同じ圧力範囲で、水温・塩分を比較します。品質情報を確認し、変数の定義と処理条件もそろえます。OceanGraphのθとSは、それぞれポテンシャル水温と絶対塩分です。
  4. Trajectoryを有効にし、Analyze > View sectionで前後のサイクルの断面を表示します。横軸のサイクル番号が等間隔でも、観測の時間間隔や場所がそろっているとは限らないため、観測日時と地図上の位置も確認します。
  5. Data layerでMLDを選ぶと、混合層深度も比較できます。OceanGraphでは、水温・塩分・密度のそれぞれの基準に達する位置のうち、最も浅いものを採用します。

操作と計算条件は、Search and Bookmark(英語)、Trajectory and Time-Series Vertical Section(英語)、Mixed Layer Depth(英語)にまとめられています。幅の狭い画面では、該当する地図上の操作をToolsから開きます。

観測間隔を含めて結果を説明する

標準的なArgoフロート(英語)は、漂流しながらおよそ10日間隔でプロファイルを取得します。その間に台風が通過し、表層の再加熱や成層の回復が始まることもあるため、実際の日時を確認する必要があります。最も近い前後の測定値でも、変化が最も大きい時点を捉えられなかったり、季節変化やフロートの移動による差を含んだりする場合があります。

断面図が滑らかに見えても、その間の台風通過を再現したものではありません。OceanGraphでは、各プロファイルの測定値がある圧力範囲内で、鉛直方向に限って補間します。欠けたサイクルを時間方向に埋めることはありません。

探索結果は、たとえば「通過後のプロファイルでは、以前より冷たくほぼ一様な上層が深くまで続いており、混合が起きた可能性がある」と記述できます。台風による寄与を定量化する段階では、品質管理済みデータを使い、平常時との適切な比較や不確実性の評価を行います。