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海洋熱波とは、その海域・季節としては異常に高い水温が続く現象です。異常な暖かさが海面付近に集中することもあれば、深い層まで広がり、海面が冷えたあとも海中に残ることもあります。そのため、普段よりどれだけ暖かいかに加えて、どの深さで、どれほど長く続いているかを調べる必要があります。

夏の暖かい海と海洋熱波は何が違うのか

海洋熱波は「何℃を超えたら発生」と一律に決まるものではありません。広く使われているHobdayら(2016)の定義(英語)では、その場所・季節の90パーセンタイルを超える水温が5日以上連続することを基準にします。90パーセンタイルは、過去の水温の高いほうからおよそ10%に入る境目です。基準となる過去の期間には、可能であれば30年間を使うことが推奨されています。ただし、5日以上続く高水温の期間どうしの間に、基準を超えない日が1〜2日だけ挟まる場合は、その中断も含めて一つの海洋熱波として扱います。

季節に応じた基準と比べるため、冬でも例年より著しく暖かければ海洋熱波になり、夏の高水温も平年並みなら該当しません。どの期間を基準にするかで異常の判定は変わるので、研究結果を比較するときには、基準期間と計算方法が対応しているかを確かめます。

海面下を調べるときには、同じ場所・深さにおける季節ごとの長期平均から、どれだけ水温がずれているかを求めます。この差が水温偏差で、正なら基準より暖かいことを意味します。ただし、正の偏差があるだけでは、海洋熱波の水温や持続期間の条件を満たしたとは判断できません。

異常な暖かさが届く深さは決まっていない

人工衛星とArgoプロファイルを組み合わせたZhangら(2023)の研究(英語)では、海洋熱波の鉛直構造にいくつかの型が見つかりました。浅い層だけが暖かい場合、深くまで暖かさが続く場合、海面下で偏差が最大になる場合に加え、海面は暖かいのに、その下は基準より冷たい場合もあります。

ここで比較の基準になるのは、「その深さでの普段の水温」です。たとえば200mの水が海面より冷たくても、200mとしては異常に暖かいことがあります。水温の鉛直分布を解釈するための基礎は、海は深くなるとどう変わる?で説明しています。

水温の正偏差が浅い層に限られる場合、深くまで続く場合、海面が季節平均に近くても海中に残る場合を比べた概念図

左と中央は海面の偏差が同じですが、正の偏差が続く深さは異なります。右は海面が季節平均に近くても、海中には正の偏差がある状態です。破線は、それぞれの深さにおける季節平均を表しており、海洋熱波を判定するしきい値ではありません。

鉛直方向の違いを捉えるには、次の三つを分けて見ます。

  • 偏差の大きさ:各深さの季節平均より、どれだけ水温が高いか
  • 深さ方向の広がり:異常な暖かさが、どの深さの範囲にあるか
  • 持続期間:各深さで、正の偏差や、定めた海洋熱波のしきい値を超える状態がどれだけ続くか

海水の密度と比熱を考慮して、水温偏差を一定の体積について積算すると、季節ごとの基準からの海洋貯熱量の偏差を求められます。薄い表層に大きな偏差がある場合より、厚い層に小さな偏差がある場合のほうが、余分に蓄えられた熱が多いこともあります。詳しくは海面水温だけでは海の温暖化が分からない理由を参照してください。

海面と海中で暖まり方が違う理由

海が暖まる要因には、大気から受け取る熱の増加、大気へ逃がす熱の減少、海流による暖水の流入などがあります。混合の強さや海中の層の位置が変わることでも、ある深さの水温は変化します。どの過程が強く働くかは現象ごとに異なり、Holbrookらによる海洋熱波の要因の整理(英語)でも、こうした複数の過程が示されています。

塩分も海水の密度に関わるため、海洋熱波の広がりを考えるうえで欠かせません。表層が低塩分になると成層が強まり、下の水と混ざりにくくなることがあります。その場合、海面付近は大きく暖まっても、暖かさは比較的浅い層にとどまることがあります。

北東太平洋の二つの海洋熱波

Scannellら(2020)の研究(英語・PDF)では、Argoの水温・塩分から作成した格子データを使い、北東太平洋で起きた2013〜2016年と2019〜2020年の海洋熱波を比較しています。海面の暖まり方は同程度でしたが、2019年のアラスカ湾では表層の塩分が例年より低く、成層が強まっていました。著者らは、この強い成層が、以前の現象ほど深くまで暖かさが広がらなかった一因と考えています。

この研究では2020年6月までの観測データを使い、同年前半に海面下の貯熱量が徐々に増えたことも示されています。海面の海洋熱波が終わっても海中の正偏差は残ることがあるため、海面水温マップに示される終息時期だけでは、海中全体が元の状態へ戻ったとは判断できません。

Argoで分かることと、熱波の判定に必要なこと

人工衛星による広域の海面観測に、深さ方向の繰り返し観測を加えられるのがArgoの強みです。国際Argo計画の解説(英語)にあるように、標準的なフロートは海流に乗って漂流しながら、おおむね10日ごとにプロファイルを取得します。

この間隔でも、報告済みの海洋熱波が海中でどのような構造を持つかを調べられます。一方、10日離れた二つのプロファイルが暖かくても、同じ場所で5日連続して高水温だったとは確認できません。また、後のプロファイルが暖かい理由が時間変化とは限らず、フロートが前線を横切ったり、渦に入ったりした可能性もあります。

海洋熱波の発生を判定するには、時間間隔が十分に細かい水温データと、季節に応じた基準値が必要です。海面下の水温は、同じ深さ・季節の基準値と比較します。例えば、観測データにポテンシャル水温を使うなら、基準値もポテンシャル水温でそろえます。近くの別のフロートや他の観測機器も合わせて見ると、広い海域で起きている変化と、一つのフロートが移動したことによる違いを区別しやすくなります。

OceanGraphで海洋熱波の時期の鉛直構造を見る

探索の出発点には、Scannellらが調べた2019年晩夏のアラスカ湾を選べます。外洋の小さな海域に絞り、たとえば2019年9月のプロファイルを検索します。その期間に取得されたプロファイルから、追跡するフロートを選びます。

  1. プロファイルを選び、θで表示されるポテンシャル水温と塩分を確認します。上層の暖かい水がどれほど厚いか、表層に低塩分の層があるかを見ます。
  2. Trajectoryをオンにして、Analyze → View sectionを開きます。選んだフロートの公開済みサイクルをたどり、断面のθとSを切り替えて、水温と塩分の構造を比べます。
  3. 夏のプロファイルと、その後のプロファイルを比較します。各サイクルの日付と地図上の位置を確認しながら、暖かい層の深さの変化が、塩分や場所の変化を伴っているかを見ます。

画面に表示されるのは、観測値を処理して得た変数による海中の構造です。暖色は値が高いことを表し、季節平均からの偏差を表しているわけではありません。熱波に伴う偏差を定量的に求めるには、別の解析で対応する季節の基準値と比較します。秋に水温が下がっていても、その季節としてはまだ暖かいことがあるためです。

検索の操作はSearch and Bookmarkガイド(英語)、地図と断面の連動はTrajectory and Time-Series Vertical Sectionガイド(英語)で確認できます。熱波と重なって起きる季節変化を考えるには、海の季節は何mの深さまで届く?も役立ちます。