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水温躍層塩分躍層密度躍層は、それぞれ水温、塩分、密度の鉛直勾配が大きい層です。

三つは近い深さに現れることがありますが、同じ境界の別名ではありません。海水の密度は水温と塩分の両方で決まり、その効果が強め合うこともあれば、片方が支配したり、互いに一部を打ち消したりすることもあるからです。そのため、水温躍層と塩分躍層がはっきりしているのに密度躍層が弱い場合や、反対に、明瞭な水温躍層がなくても塩分によって密度躍層ができる場合があります。

本記事では、三つの躍層を見分けて深さの範囲を比べる方法とともに、混合層深度(MLD)をすべての躍層の位置と同一視しないための考え方を整理します。

三つの違いを一覧で比べる

用語圧力・深さ方向に急変する量確認する図
水温躍層水温水温またはポテンシャル水温の鉛直プロファイル
塩分躍層塩分実用塩分または絶対塩分の鉛直プロファイル
密度躍層密度基準を統一した密度プロファイル、または密度勾配の指標

英語の接尾辞「-cline」は勾配を表すため、重要なのは水温・塩分・密度の値そのものではなく、ある鉛直区間でそれらが深さに対して比較的大きく変化することです。

プロファイルの軸や曲線の形にまだ慣れていない場合は、先に海洋の水温・塩分プロファイルの読み方をご覧ください。本記事では、プロファイル内の急な変化を見つけられることを前提に、その変化を水温・塩分・密度の三つの量で照合します。

一方、一つのプロファイル内ではなく地点間で物性が大きく変わる場合、それは鉛直勾配ではなく水平勾配です。その比較方法については、海洋前線とは?で解説しています。

躍層は一本の線ではなく、厚みのある層

実際のプロファイルが、ある圧力を境に、性質の均一な二つの水塊の間で不連続に切り替わることはほとんどありません。勾配が強まり始めてから、変化の大きい区間を経て再び弱くなるまでが一つの遷移域となるため、躍層には厚みがあります。

したがって、「水温躍層の深さ」という数値だけでは定義が足りません。少なくとも次のどれを指すのかを明示する必要があります。

  • 強い勾配が始まる上端
  • 勾配が最大になる圧力
  • 遷移域の中央
  • 強い勾配が終わる下端

同じプロファイルでも定義が違えば結果は変わり、観測点の間隔や欠測、平滑化、補間も見かけの位置や鋭さに影響します。そのため、探索の段階では無理に一点へまとめず、まず候補となる圧力範囲として記録する方が適切です。

NOAA PMELの上層海洋構造に関する解説(英語・PDF)でも、水温躍層と塩分躍層は必ずしも一致せず、どちらか一方または両方が主要な密度躍層をつくると説明されています。

水温躍層:水温が大きく変わる層

典型的な上層海洋では、暖かい表層水の下に冷たい水があり、水温躍層を通って水温が急に低下します。ただし、「深くなるほど必ず冷える」とだけ考えていると、水温逆転によって深い方ほど暖かくなる区間の強い水温勾配を見落とします。逆転層を水温躍層に含めるかどうかは定義によって異なるため、用語の使い方を明示します。

水温躍層には季節的なものと恒久的なものがあり、表面加熱・冷却、風による混合、緯度、海洋循環によって深さと強さが変わります。気象庁FAQ「水温躍層とは何ですか」では、熱帯太平洋の主水温躍層と、浅い場所にできる季節水温躍層を区別して説明しています。ただし、いずれの場合も水温だけでは密度構造を確定できないため、塩分も併せて確認しなければなりません。

塩分躍層:塩分が大きく変わる層

塩分躍層を調べるときは、鉛直方向の変化が大きいかどうかだけでなく、どちら向きに変化しているかも確認します。

  • 低塩分の水の下に高塩分の水があると、通常は安定した密度成層を強めます。
  • 高塩分の水の下に低塩分の水があると、塩分は静的不安定を強める方向に働きます。水温による安定化の効果が上回れば水柱全体は安定に保たれ、塩分の効果が上回れば静的不安定になり得ます。

淡水流入、海氷融解、降水、蒸発、移流、沈み込みなどによって塩分の異なる層ができると、上層に強い塩分躍層が現れます。塩分躍層は水温躍層と重なることも、その上や下にずれることも、水温の明瞭な遷移がない場所に単独で現れることもあります。

なお、塩分勾配を比べる際は塩分の種類も明示する必要があります。OceanGraphが表示するのは、元のArgoプロファイルに収録されたPSALではなく絶対塩分(SA)であり、その換算方法と単位についてはポテンシャル水温と絶対塩分とは?で解説しています。

密度躍層:密度が大きく変わる層

密度が鉛直方向に急変する層が密度躍層であり、安定成層した水柱では、この層を通って深い方ほど密度が高くなります。

ただし、現場密度を圧力に対して描き、深くなるほど値が増えた部分をすべて密度躍層と呼ぶことはできません。現場密度は、水の性質が同様であっても圧力によって変化するためです。そこで上層構造を調べる際は、基準圧力を明示したポテンシャル密度や、鉛直密度勾配を適切に扱える浮力振動数などを用います。

OceanGraphのθ-S図では、背景に0 dbar基準のポテンシャル密度偏差(σ₀)の等値線を表示するため、水温・塩分の変化が密度空間をどのように横切るかを確認できます。一方、測定点の鉛直方向の順序はθ-S図だけでは分からないので、変化が生じた圧力を特定するには鉛直プロファイルを確認する必要があります。

TEOS-10公式サイト(英語)で公開されている状態方程式では、絶対塩分、保存水温、海水圧から現場密度を求めます。一方、ポテンシャル密度では、海水を仮想的に移す先の基準圧力も指定し、σ₀では0 dbarを基準とします。

三つの躍層が重なる場合と、重ならない場合

同じ圧力で一般的な海水を比べると、低温の水は高温の水より密度が高く、高塩分の水は低塩分の水より密度が高くなる方向に働きます。ただし、それぞれの効果の大きさは海水の状態によって変わるため、図に示した変化の向きだけで判断せず、実データから密度を計算します。

水温と塩分が密度勾配を強める場合、塩分だけが主に密度勾配をつくる場合、水温と塩分の密度効果が一部を打ち消す場合を比較した模式プロファイル

横軸は変数ごとに独立した模式的な尺度です。実データでは密度を計算して、組み合わせた効果を確認します。

1. 水温と塩分が密度変化を強め合う

深くなるにつれて、暖かく比較的低塩分の水から冷たく高塩分の水へ変わる場合、低温化と高塩分化はいずれも下層の密度を高くします。このとき、水温躍層と塩分躍層は近い圧力範囲に現れ、二つの密度効果が強め合うため、同じ圧力帯に強い密度躍層ができやすくなります。ただし、正確な範囲は各勾配の大きさと定義方法によって変わります。

2. 塩分が密度躍層をつくる

水温はほとんど変わらず、低塩分の表層水の下に高塩分の水がある場合、水温躍層は目立たなくても、塩分躍層によって明瞭な密度躍層ができます。これは、水温プロファイルだけでは重要な成層を見落とす例であり、淡水の影響が強い海域では、表層と亜表層を隔てる構造を塩分が決めることがあります。

3. 水温と塩分の密度効果が一部を打ち消す

暖かく高塩分の水の下に、冷たく低塩分の水がある場合、深くなる方向の低温化は密度を高める一方、高塩分から低塩分への変化は密度を低くする方向に働きます。そのため、水温と塩分のプロファイルにどちらも鋭い躍層があっても、密度変化は小さくなり得ます。

このように、反対向きの効果が大きく相殺されることを密度補償と呼びます。ただし、両者が必ず完全に打ち消し合うわけではなく、変化量によっては、密度躍層が弱くなる、水温・塩分躍層から少しずれる、あるいは依然として明瞭に残る場合があります。

実際の上層海洋にも、塩分が水温勾配の密度効果を大きく補償する例があり、Sérazinほか(2023、英語)でも報告されています。こうした観測例からも、水温躍層だけでは密度構造を判断できないことが分かります。

躍層と混合層深度は同じではない

三つの用語は似ていますが、それぞれ異なる概念を表します。

用語意味
混合層物性が比較的一様な表層の領域
混合層深度(MLD)定めた基準で、その領域の下端を一つの値に要約した推定値
躍層ある変数の鉛直勾配が大きい、厚みのある遷移域

上層の密度躍層の上端とMLDが近くなることはありますが、両者は同じ定義に基づく量ではありません。OceanGraphのようなしきい値法では、浅い基準値からの差が一定値に達した位置をMLDとする一方、勾配や層形状を使ってMLDを求める手法もあります。また、躍層の解析では勾配の最大値を求める場合もあれば、遷移域全体を対象にする場合もあるため、数値が一致するとは限りません。

次のようなプロファイルでは、両者がずれます。

  • 水温と塩分が密度補償している
  • 低塩分の表層が、より深い等温層の上に密度遷移をつくる
  • 勾配のピークが複数ある
  • 成層が弱く、変化が緩やかである
  • MLDの判定基準や浅い基準深度が異なる

低塩分層が密度成層によって混合を妨げる一方、その下まで水温がほぼ一様に続く構造は、バリアレイヤーと関係します。判定基準とバリアレイヤー(barrier layer)についてはプロファイルから混合層深度を計算する方法を、OceanGraphの探索用MLDの定義については混合層深度(MLD)とはを参照してください。

Argoプロファイルで三つの躍層を見分ける手順

三つの躍層を見分けるには、水温と塩分を対で読み、どの位置を躍層として扱うかを先に定義します。

1. データ品質と鉛直範囲を確認する

調べたい区間に有効な水温、塩分、圧力がそろっているかを確認します。測定間隔が広い場合、点を結んだ線が鋭い勾配に見えても、実際の変化を十分に捉えているとは限りません。また、Argoプロファイルの鉛直サンプリングはすべて同じ間隔ではないため、関連する注意点はArgo Data FAQ(英語)で確認してください。

OceanGraphの画面とダウンロードJSONに含まれるのは、フィルタリング方針(英語)を適用した後の値であり、利用できないセルは欠測のままです。ただし、元の品質管理(QC)配列や、未補正値・補正済み値の選択情報は表示されないため、これらのフラグを独立して確認する必要がある場合は、対応するArgo NetCDFを調べてください。

2. θとSAを同じ圧力軸で比べる

ポテンシャル水温と絶対塩分について、深さに対する変化が大きい区間をそれぞれ記録します。このとき、変化の向きと圧力範囲の両方を確認し、二つの境界が一致するとは決めつけないことが大切です。

3. 二つを合わせた密度効果を調べる

鉛直プロファイルで候補区間の上下にある圧力を決め、それぞれの圧力に対応するθとSAの組をθ-S図上に二点として示します。そのうえで、二点とσ₀等値線との位置関係を比べます。二点を結ぶ区間が多くの等値線を横切れば、ポテンシャル密度の変化が大きいことが示唆されます。一方、その区間が一つの等値線にほぼ沿っていれば、密度補償が示唆されます。ただし、OceanGraphのθ-S図は圧力を軸に表示しないため、曲線だけでは躍層の位置や比較する二点を決められません。

密度躍層の深さや強さを定量化する場合は、品質管理済みデータを出力し、基準を統一した密度または浮力振動数のプロファイルを計算します。その際は、基準圧力、勾配の求め方、平滑化、しきい値を明記します。

4. MLDは目安として比較する

MLDは上層の成層構造を把握する際の目安になるため、候補となる勾配域の上端に近いか、またMLD付近でどの物性が変化するかを確認します。ただし、OceanGraphに表示されるのは最終的なMLDだけで、水温・塩分・密度のどの判定がその値を決めたかは示されません。判定過程まで特定するにはプロファイルから再計算する必要があるため、表示されたMLDをそのまま「密度躍層の深さ」と呼ばないようにしてください。

5. 近くのプロファイルや連続サイクルで確かめる

近接する複数のプロファイルで同じ特徴が繰り返し確認できれば、単一のプロファイルに見られる局所的な変化だけから判断する場合よりも、確度が高まります。ただし、Argoフロートは漂流しているため、サイクル間の差には時間変化と空間移動が同時に含まれることに注意してください。

OceanGraphで確認できること、できないこと

OceanGraphでは、次のことを確認できます。

  • 共通の圧力軸で、ポテンシャル水温と絶対塩分の勾配を比べる
  • θ-S図の等密度線から、密度効果の補強・補償を検討する
  • 表示されたMLDと遷移域の候補を比べる
  • 軌跡と時系列鉛直断面で、フロートが観測した構造の変化を追う

一方、OceanGraphでは現在、水温躍層、塩分躍層、密度躍層の深さや厚さについては自動的な判定を行っておらず、σ₀や浮力振動数の鉛直プロファイルも直接は表示しません。そのため、ブラウザ上の図は候補を見つけて確かめる段階に向いていますが、再現可能な境界値を報告するには、データを出力したうえで、境界の判定基準や計算手順を明示する必要があります。

関連する機能ガイド:

要点

  • 水温躍層、塩分躍層、密度躍層は、それぞれ水温、塩分、密度の強い鉛直勾配です。
  • 躍層には厚みがあり、一つの深さを示すなら定義が必要です。
  • 水温と塩分の密度効果は、強め合うこと、一方が支配すること、互いに補償することがあります。
  • MLDは定めた判定基準で表層の下端を要約した推定値で、躍層の別名ではありません。
  • 定量的な境界を示す前に、θとSAを併せて確認し、統一した基準で密度を計算するとともに、サンプリング間隔や品質管理の状態も確認します。

参考資料