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Argoプロファイルには現場水温実用塩分が収録されているのに対し、OceanGraphのグラフにはポテンシャル水温絶対塩分が表示されます。名称も値もよく似ていますが、これらは同じ量ではありません。

この違いは、地点や深度が異なる値を比べるときだけでなく、図の軸に単位を記したり、密度を計算したりするときにも重要です。ポテンシャル水温は、異なる圧力で測られた水温を共通の基準圧力で比較できるようにした量であり、絶対塩分は、TEOS-10の熱力学計算に用いる、海水組成の違いが密度に与える影響を反映したg/kgの塩分変数です。後者は、TEOS-10で定義された標準組成(Reference Composition)の海水では、溶存物質の質量分率に対応します。このように、どちらも水の性質を比較しやすくするための量です。ただし、観測時の圧力における水温を知る場合や、換算結果を再現・検証する場合には、換算前の現場水温と実用塩分などの情報も必要です。

本記事では、四つの量の違いとOceanGraphでの換算手順を整理し、OceanGraphのθ-S図とTEOS-10のSA-CT図がどのように異なるのかを解説します。

四つの量を一覧で比べる

何を表すか記号(本文表記)単位・尺度
現場水温センサーが観測した圧力での水温t°C
実用塩分PSS-78で定義された、導電率に基づく塩分SP無次元
ポテンシャル水温海水をエントロピーと塩分を保ったまま基準圧力へ移したと仮定したときの水温θ°C
絶対塩分海水組成の違いが密度に与える影響を反映するTEOS-10の塩分変数。標準組成の海水では溶存物質の質量分率に対応するSAg/kg

正式な記号は、現場水温がt、実用塩分がSの下付きP、絶対塩分がSの下付きAです。本文では後二者をプレーンテキストに合わせてSP、SAと表記します。これらはArgo NetCDFの変数名ではなく、ファイル上では現場水温がTEMP、実用塩分がPSALに収録されています。

四つの量を区別するうえで、最初に押さえておきたいのは次の二点です。

  • 現場水温と実用塩分は、CTDによる測定から得られる量です。
  • ポテンシャル水温と絶対塩分は、その観測値と付帯情報から計算する派生量です。

四つの量が鉛直プロファイルにどのように表れるかを先に確認したい場合は、海洋の水温・塩分プロファイルの読み方をご覧ください。

現場水温とは

現場水温とは、海水が実際に観測された場所と圧力における水温です。Argoフロートに搭載されたCTDは、浮上しながら水温と圧力を測るとともに、導電率から塩分を求めます。この観測の流れは、国際Argo計画によるフロートの解説(英語)で確認できます。

「その圧力にある海水の水温」を知るには現場水温が必要です。ただし、海水塊は周囲と熱や塩をやり取りしなくても、鉛直方向へ移動するだけで水温が変わるため、深い場所と浅い場所で測った現場水温を、そのまま同じ圧力条件の値として比べることはできません。そこで海洋物理学では、鉛直方向に比較する際、共通の基準圧力に換算した水温がよく用いられます。

ポテンシャル水温とは

ポテンシャル水温とは、海水塊をエントロピーと塩分を保ったまま、ある基準圧力まで移したと仮定したときの水温です。OceanGraphでは基準圧力を0 dbarとし、θまたはθ₀で表される量を使います。

したがって、ポテンシャル水温は別の温度計で測った値ではなく、熱力学的に換算した仮想的な水温です。大まかには「圧縮による昇温の影響を取り除いた水温」と説明できますが、一定の補正値を現場水温から単純に差し引くわけではありません。実際には、TEOS-10の海水状態方程式を使い、エントロピーを保つ経路に沿って基準圧力での値を求めます。

このように、すべての測定値を同じ基準圧力で表すことにより、プロファイル内の差を、水が持つ性質の違いとして比較しやすくなります。

0 dbar付近では、現場水温と0 dbar基準のポテンシャル水温はほぼ同じですが、観測圧力が高くなるにつれて、両者の違いを無視できない場合が出てきます。ただし、その差は水温・塩分・圧力によって変わるため、一定値を足し引きするだけでは換算できません。

実用塩分とは

実用塩分とは、導電率、水温、圧力から1978年実用塩分スケール(PSS-78)に従って求める量で、記号はSP、正式には無次元です。

実用塩分には、機器の測定から再現性よく求められ、長年の海洋観測とも結び付いているという大きな利点があるため、現在も多くの観測データに保存されています。一方、あくまで導電率の比に基づく尺度であり、「海水1 kgに溶存物質が何g含まれるか」を直接表す値ではありません。

古い図や慣用的な説明では、実用塩分に「PSU」と書かれていることがありますが、正式なSPには単位がありません。そのため、見慣れた数値の範囲だけで塩分の種類を判断せず、変数名とメタデータを確認する必要があります。

絶対塩分とは

絶対塩分とは、TEOS-10の熱力学計算で用いる、海水組成の違いが密度に与える影響を反映した塩分変数です。記号はSA、単位はg/kgであり、標準組成の海水では溶存物質の質量分率に対応します。

海水に含まれる成分の比率は地域によってわずかに異なり、同じ導電率でも溶存物質の質量や熱力学的性質が完全に同じとは限らないため、実用塩分から絶対塩分への換算に一律の係数は使えません。そこで、OceanGraphが外洋データに用いるTEOS-10の換算では、次の情報を使います。

  • 実用塩分
  • 圧力
  • 経度
  • 緯度

こうして得られるSAには、全球データから推定した海水組成の地域差も反映されます。ただし、標準組成と異なる海水では、密度を再現するように推定した値が、全溶存物質を実際に量った質量分率と一致するとは限りません。つまり、SAはArgoフロートが各溶存物質を化学分析した結果ではなく、熱力学計算のために求められた塩分変数です。

実用塩分に代えて絶対塩分を熱力学的な状態方程式に用いる理由は、TEOS-10公式サイト(英語)で説明されています。また、実際の換算関数については、GSW Oceanographic Toolboxの関数一覧(英語)で確認できます。

OceanGraphはArgoプロファイルをどう換算するか

OceanGraphでは、次の手順で表示値を求めます。

Argoの現場水温、実用塩分、圧力、位置からポテンシャル水温と絶対塩分を求め、保存水温を介してポテンシャル密度偏差を計算する流れ

  1. プロファイルから品質条件を満たす現場水温、実用塩分、圧力を選び、条件に合う補正済みデータが利用できる場合はそちらを使います。
  2. SA_from_SP(英語)を使い、実用塩分、圧力、経度、緯度から絶対塩分を求めます。
  3. pt_from_t(英語)を使い、絶対塩分、現場水温、圧力から0 dbar基準のポテンシャル水温を求めます。
  4. 得られたポテンシャル水温と絶対塩分を保存し、画面に表示します。

θ-S図の背景に密度を描く場合は、ここまでの手順に加えて、もう一段階の処理が必要です。まず、絶対塩分とポテンシャル水温をCT_from_pt(英語)に与えて保存水温(Conservative Temperature、CT)を求め、続いて絶対塩分とCTをsigma0(英語)に与えて0 dbar基準のポテンシャル密度偏差(σ₀)を計算します。

この手順により、密度計算にTEOS-10が前提とする変数を入力しています。CTへの換算は背景の等密度線を計算するためだけに行い、プロファイルの表示値自体は換算しないため、縦軸はポテンシャル水温、横軸は絶対塩分のままです。

ポテンシャル水温と保存水温は同じではない

TEOS-10では、海洋の熱量や乱流混合を扱う多くの計算に保存水温を使うことが推奨されています。海洋の多くの場所ではポテンシャル水温と保存水温が近い値になるものの、熱力学的な定義と用途は異なるため、両者を同じ変数として扱うことはできません。

したがって、水温・塩分図を読むときは、少なくとも次の三種類を区別する必要があります。

  • 現場水温と実用塩分を使うT-SP図
  • ポテンシャル水温と、種類を明示した塩分を使う従来のθ-S図
  • TEOS-10の絶対塩分と保存水温を使うSA-CT図

OceanGraphの機能名はθ-S Diagramであり、横軸にSA、縦軸にθを表示します。この組み合わせはプロファイルの性質を比べるのに有用ですが、SA-CT図とは異なります。各変数の詳しい定義や、現在の熱力学的な標準でCTとSAを用いる理由については、TEOS-10 Manual(英語・PDF)をご覧ください。

曲線の形、等密度線、水塊を示唆する特徴の読み方は、海洋学のT-S図を読み解くで詳しく解説しています。

変数の選び方で解釈が変わる理由

異なる圧力の測定値を比べる

ポテンシャル水温は、すべての測定値を共通の基準圧力で表すため、圧力条件が異なる現場水温をそのまま比べるよりも、鉛直方向や地域間で水の性質を比較しやすくなります。

密度を計算する

状態方程式にはその式が前提とする変数を渡す必要があるため、絶対塩分が必要な場所へ実用塩分を入れたり、保存水温が必要な場所へポテンシャル水温を入れたりすると、数値がもっともらしく見えても、状態方程式の前提に合わない組み合わせになります。

データや図を相互に比較する

塩分軸が同じような数値範囲に見えても、図によってSPの場合とSAの場合があり、水温軸もt、θ、CTのいずれかです。そのため、定量的に扱う際は、小さな数値差だけでなく、軸がどの変数を表しているかにも注意しなければなりません。

鉛直勾配を解釈する

θやSAが急変する場所を調べると、水の性質が切り替わる候補を見つけられます。ただし、密度成層は両者の効果を合わせて決まるため、一方だけを見て判断することはできません。この関係については、水温躍層・塩分躍層・密度躍層の違いで、三つの勾配が重なる場合と、互いの密度効果を打ち消す場合に分けて説明しています。

変数を間違えない確認手順

Argoのプロファイルや図を開いたら、次の順に確認します。

  1. 軸名と単位を読む。「水温」がtとは限らず、「塩分」がSPとは限りません。
  2. 基準圧力を確認する。ポテンシャル水温やポテンシャル密度は基準圧力と一組です。OceanGraphは0 dbarを使います。
  3. データ源と品質方針を確認する。Argoの補正済み値と未補正値には異なる役割があり、品質条件を満たさない組を派生計算へ入れてはいけません。
  4. 式と変数を対応させる。TEOS-10関数が要求するSA、CT、θ、t、圧力を区別します。
  5. 元の観測値を残す。派生量を使う場合も、t、SP、圧力、位置、QCフラグへ戻れることが大切です。

なお、OceanGraphで提供しているプロファイルデータには、変換元のt、SP、各測定点のQCフラグは含まれていません。そのため、変換元の値やQCまで確認する必要がある分析では、フィルタリング済みのOceanGraphデータだけで完結させず、対応するArgo NetCDFも保管または取得してください。

表示軸と背景の等密度線の仕様はθ-S Diagramガイド(英語)で、表示前に有効な水温・塩分の組を選ぶ方針はデータフィルタリングポリシー(英語)で確認できます。

よくある誤解

SPとSAは、同じ塩分に違う単位を付けただけ

違います。SPが導電率に基づく無次元の量であるのに対し、SAは海水組成の違いが密度に与える影響を反映するTEOS-10の塩分変数で、g/kgで表します。なお、SAが溶存物質の質量分率に対応するのは、標準組成の海水の場合です。

ポテンシャル水温は「圧力補正済み水温」

この表現だけでは熱力学的な定義と基準圧力が分からないため、「エントロピーと塩分を保って、明示した基準圧力へ移したと仮定した水温」と捉える方が正確です。

T-S図なら、どれも同じ変数を使う

図の通称だけでは実際の軸に使われている変数は分からないため、曲線を比較したり等密度線を重ねたりする前に、軸名を確認します。

位置情報なしで絶対塩分へ換算できる

標準的なSAの推定には、SPと圧力に加えて経度・緯度も必要であり、位置情報を省くと、海水組成の地域差を換算に反映できません。

派生量は直接観測された値である

ArgoのCTDが測る水温・導電率・圧力から実用塩分が求められ、θとSAはそれらをもとにさらに換算されます。そのため、θとSAにも、元データの品質や欠測、換算方法の前提が引き継がれます。

要点

  • 現場水温と実用塩分はCTD観測に由来し、θとSAはそこから求める派生量です。
  • ポテンシャル水温は、エントロピーと塩分を保って明示した基準圧力へ移したと仮定した水温です。OceanGraphは0 dbarを基準にします。
  • 実用塩分は導電率に基づく無次元の量、絶対塩分は海水組成の違いが密度に与える影響を反映するTEOS-10の塩分変数で、g/kgで表します。
  • OceanGraphはθとSAを描き、σ₀の等密度線を求めるときだけ内部でCTを使います。
  • 定量的に比較する前に、変数名、単位、基準圧力、状態方程式の入力を対応させる必要があります。

参考資料