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混合層深度は測るものではなく、定義してから計算するものなので、得られる数値は計算に入る前の決め方によって変わります。具体的には、判定に使う変数、変化を見る基準の深さ、混合層を抜けたと見なす変化の大きさ、測定点と測定点のあいだの扱い方という4点を決めて初めて、数値が一つに定まります。
同じArgoプロファイルでも、二つの妥当な基準を当てはめれば、結果が100 dbar食い違うことがあります。しかし、だからといって、どちらかの計算が間違っているわけではありません。この記事では4つの判断を一つずつ取り上げ、それぞれが結果をどう変えるかを示したうえで、他で公表されている値と比較できる状態を保つために記録すべき項目をまとめます。
混合層そのものの物理的な意味や、深さが一年の中でどう変わるかを先に知りたい場合は、海洋の混合層深度(MLD)とは?求め方と季節変化の読み方から読んでください。この記事は、すでに手元にプロファイルがある状態を前提としています。
しきい値法、勾配法、フィッティングによる方法
よく使われる方法は3系統あります。
しきい値法は、ある性質が基準深度での値から一定量を超えて変化する最も浅い深さを探します。もっとも広く使われているのは、鉛直方向の測定間隔が粗い場合や不均一な場合でも挙動が予測しやすく、プロファイルごとの調整を必要としないためです。
勾配法は、鉛直勾配が上限を超える最も浅い深さを探します。たとえば1 mあたり0.025°Cといった基準です。勾配は鉛直解像度とセンサーのノイズの影響を受けやすいため、同じ基準でも2 dbar間隔のプロファイルと25 dbar間隔のプロファイルではかなり違う結果になります。
フィッティングによる方法は、一つの数値で判定するのではなく、プロファイルの形状そのものにモデルを当てはめます。HolteとTalleyのhybrid algorithmは、混合層と季節躍層に直線を当てはめ、しきい値・勾配・曲率から候補となる深度の集合を作り、その中から最終的な値を選びます。しきい値法より浅いMLDを返す傾向があり、スクリップス海洋研究所が公開しているArgo mixed layer databaseの基礎にもなっています。
以降はしきい値法を扱います。多くの人が実装するのはこの方法であり、公表されているMLDの値の多くもここから得られているためです。
判断1:どの変数で判定するか
ポテンシャル水温
水温は、Argo以前のXBTやCTDの記録も含めて、ほぼすべてのプロファイルで利用できるため、長期の気候値も水温基準で作られていることが少なくありません。ただし、数百dbarより深いところで現場水温をそのまま使うのは誤りです。水は水圧で圧縮されるだけでも水温が上がり、まったく同じ水でも深いところで測るほど現場水温は高く出るので、まず、この圧縮による上昇分を取り除いたポテンシャル水温(θ)または保存水温(CT)へ変換します。
水温基準の限界は、塩分による成層が見えないことです。熱帯のほか、降水や河川の影響が強い海域では、鋭い塩分躍層が水温躍層の上に位置することがあります。その間の層は密度としては成層しているのに水温はほぼ一様なので、水温基準では、実際には混合していない水まで混合層に含めてしまいます。SprintallとTomczakはこの層をbarrier layerと呼びました。水温だけで求めたMLDがもっとも信用できないのは、まさにこうした場所です。
ポテンシャル密度
静的安定度を決めているのは密度なので、密度基準のほうが、混合しているかどうかという物理的な意味に近い判定になります。プロファイルを共通の圧力で比較できるよう、現場密度ではなく0 dbar基準のポテンシャル密度偏差(σ0)を使います。求めるには水温だけでなく塩分も必要です。TEOS-10で扱う場合は、先に絶対塩分と保存水温を求めることになり、その計算には位置情報も要ります。
塩分
外洋の多くの海域では、混合層の下端をまたぐ塩分の差が小さいため、塩分だけでしきい値を判定することはほとんどありません。塩分基準が役に立つのは、水温・密度と並ぶ3つ目の判定として使うときであり、水温基準よりはるかに浅い深度を返した場合は、どちらの値も信用する前にプロファイルを見るべきだという合図になります。
判断2:どの深さを基準にするか
しきい値は必ず「何かからの変化」です。プロファイルの最浅測定点を基準にするのが自然に思えますが、これは適切ではありません。フロートが測定を開始する圧力は一定ではなく、表層数mには、日射で暖まって一日のうちに現れては消える層があります。最浅点を基準にすると、MLDはフロートが浮上した時刻や、たまたま最初の測定点がどの深さだったかに左右されてしまいます。
この変動より下に、浅めの基準深度を置くのが一般的な対処です。もっともよく使われるのは10 m(または10 dbar)です。 de Boyer Montégutらは全球のMLD気候値でこれを採用しており、その後の多くの研究もこれに従っています。5 mを基準とする例もあります。10 mより上、つまり表層付近の成層がまだ残っている位置にあたるため、やや浅い混合層が得られます。
基準深度はしきい値と同じくらい結果を左右しますが、MLDの値が示されるときに省略されがちな項目でもあります。必ず記録してください。
判断3:しきい値をどの大きさにするか
しきい値が大きいほど混合層は深くなり、理屈としては単純ですが、基準どうしを置き換えられない理由もここにあります。
| 出典 | 変数 | 基準深度 | しきい値 |
|---|---|---|---|
| de Boyer Montégut et al. (2004) | ポテンシャル水温 | 10 m | 0.2 °C |
| de Boyer Montégut et al. (2004) | ポテンシャル密度 | 10 m | 0.03 kg/m³ |
| Wyrtki (1964); Obata et al. (1996) | 水温 | 表層付近 | 0.5 °C |
| Kara et al. (2000) | 水温変化に相当する密度変化 | 10 m | 0.8 °C相当 |
| Levitus (1982) | ポテンシャル密度 | 海面 | 0.125 kg/m³ |
Kara基準は、自分で使わないとしても、仕組みを知っておくと役に立ちます。あらかじめ決めた密度のしきい値を使う代わりに、決めておいた水温変化がその場の水温と塩分のもとで生む密度変化を計算し、それをしきい値にします。つまり、しきい値の大きさが水の状態に応じて変わります。同じ水温変化でも密度の動き方は暖水と冷水で大きく異なるため、一つの値に固定したしきい値が暖水では実質的に厳しく、冷水では緩くなってしまうのを避けられます。
下の図は、北太平洋西部の晩冬のArgoプロファイル1本に、この中の4つのしきい値を適用したものです。

厳しい2つのしきい値が返した深度は互いに近く(57と54 dbar)、緩い2つも同じように近い値になっています(147と160 dbar)が、この2組のあいだは約100 dbar離れています。この食い違いは水温と密度の違いによるものではなく、しきい値の厳しさによるものです。厳しいしきい値が示すのは成層が現れ始める深さであるのに対し、緩いしきい値が示すのは、そこから先は確実に混合層の外だと言える深さです。このように異なる深さでありながら、どちらも混合層深度と呼ばれています。
どちらが必要かは、その数値を何に使うかで決まります。厳しいしきい値は、深い残存層の上に薄い新しい層ができる春の再成層をよく捉えます。緩いしきい値はセンサーのノイズや表層付近の細かい構造に強く、数千本のプロファイルを平均するときに効いてきます。
判断4:測定点の間をどう扱うか
Argoプロファイルは離散的な測定点の集まりであり、しきい値がちょうど測定点上で交差することはほとんどないため、一般には次の2通りの方法で扱います。
- しきい値を超えた最初の測定点の深さを採用する
- しきい値を挟む2点を探し、交差する圧力を補間で求める
1つ目は実装が簡単ですが、MLDが測定間隔の刻みに丸められます。しかも、Argoの測定間隔は深くなるほど広がるのが一般的なので、この偏りは一様ではなく、表層付近では小さい一方で、深いところでは数十dbarに達することがあります。2つ目は数行のコードでその偏りを取り除く方法であり、上の図でもこちらを使っています。
補間するときは、配列のインデックスではなく圧力を横軸にしてください。配列上の位置を横軸にすると、測定点が等間隔に並んでいると暗黙に仮定することになりますが、Argoのプロファイルはそうなっていません。
データが足りているかを確認する
しきい値法は、ほとんどどんな入力に対しても数値を返します。その数値を採用してよいかどうかは、次の2点で決まります。
そのプロファイルは基準深度を実際に測定しているか。最浅の測定点が基準深度よりはるかに深い場合、基準にする値がありません。そこで最浅の値で代用すると、気づかないうちに基準そのものが変わってしまいます。最浅の測定点が基準深度から一定の範囲内にあることを条件にし、満たさなければ計算しない、というのが一般的な方法です。
浅い混合層を判別できるだけの表層データがあるか。表層付近の測定点が50 dbar間隔しかないプロファイルでは、補間の結果が何を示していても、20 dbarの混合層と60 dbarの混合層を区別できません。
実装の手順の一例
下の順序は一例で、手順4から7には、判断1から4で選んだ変数、基準深度、しきい値、測定点間の扱いをそのまま当てはめます。
- プロファイルのデータモードに従って生の値か補正済み変数かを選び、対応する品質管理フラグを適用します。この選び方はArgoデータの品質管理で扱っています。
- 圧力で並べ替え、圧力が重複する測定点を取り除きます。
- 基準に必要な量へ変換します。ポテンシャル水温、絶対塩分、σ0などを、Gibbs SeaWater(GSW)のようなTEOS-10の実装で求めます。
- データ品質の確認を行い、満たさないプロファイルは計算をスキップします。
- 基準深度における基準値を補間で求めます。
- 基準深度から下へたどり、偏差がしきい値に達する最初の測定点を探します。
- その測定点と一つ上の測定点のあいだで、交差する圧力を補間します。
- 得られた値を、基準・基準深度・しきい値・圧力か深さかの区別とあわせて記録します。
省略されやすいのは手順8ですが、基準の分からないMLDの値は何とも比較できないため、必ず記録する必要があります。
自分で計算していないMLDと比べるとき
論文や気候値、公開データセットにあるMLDの値を使うとき、最初に確認すべきなのは、値そのものではなく、それがどう定義されているかです。2つの出典を比べる前に、変数、基準深度、しきい値、結果がdbarの圧力かmの深さか、この4点が一致しているかを確認してください。食い違っていれば、その比較は、水柱の実際の違いと同じだけ基準の違いも測っていることになります。
圧力と深さの違いは、数値が近いので見落としやすい点です。2,000 dbarに対応する深さは、赤道でおよそ1,980 m、緯度60°で約1,972 mです。差は1%未満ですが系統的で、しかも緯度によって変わります。混合層のある上層数百dbarでは、探索段階なら無視できる程度で、数値として公表するなら明記すべき程度の差です。
実装例:OceanGraphのMLDの定義
OceanGraphは個々のArgoプロファイルからMLDの指標を計算していますが、そこで採用している方法は、上の4つの判断の具体例であり、そのまま真似することを勧めるものではありません。
- 変数:ポテンシャル水温(θ)、絶対塩分(SA)、σ0の3つを独立に判定します。いずれもGSWとTEOS-10で導出しています。
- 基準深度:10 dbar。
- しきい値:Δθが0.5 °C、ΔSAが0.05 g/kg、Δσ0が0.125 kg/m³。3つの交差深度のうち最も浅いものを採用します。
- 測定点の間:交差する圧力を線形補間し、dbarで記録します。
- データ品質:ポテンシャル水温(θ)と絶対塩分(SA)の両方に欠損していない数値がある圧力行だけを使います。0〜2,000 dbarに3点以上、そのうち50 dbar以浅に2点以上が必要です。また、最浅行の圧力は30 dbar以下、最深行の圧力は10 dbar以上でなければなりません。最浅行が10〜30 dbarにある場合は、その値を基準値として使います。これらを満たさない場合や、どのしきい値にも達しない場合は、MLDを未定義とします。
独立した3つの基準のうち最も浅い値を採るのは、探索用の指標として意図的に保守的にした選択です。報告される値が水温だけ、塩分だけ、あるいは密度だけで決まることもあるため、厳密な意味での密度基準の定義とは同じになりません。MLDが亜表層酸素極大の探索範囲をどう決めるかを含む完全な仕様は、App GuideのMixed Layer Depth (MLD)(英語)にあります。
目で確かめる工程をどこに置くか
選んだ基準が思ったとおりの深さを拾えているかどうかは、プロファイルを読むのがいちばん早い確かめ方です。下端がはっきりしたプロファイルなら、妥当なしきい値のどれを使ってもほぼ同じ答えになりますが、移り変わりが緩やかなプロファイルや、barrier layer、表層の薄い再成層があるプロファイルではそうはなりません。したがって、1万本のプロファイルへまとめて計算を回す前に、まず目で確かめる必要があります。
MLDで色分けした検索結果を季節や海域で見比べ、外れて見えるものについて元の水温・塩分プロファイルを開いてみてください。この進め方なら、判断の勘所が身に付きます。プロファイルの読み方は海洋の水温・塩分プロファイルを読み解くで、冬の深い混合層が数値以上の意味を持つ理由はモード水とは?北太平洋亜熱帯モード水を例に形成と見分け方を解説で扱っています。
よくある質問
どのMLD基準を使えばよいですか
その数値を何に使うかで決まるので、一つの正解があるわけではありません。密度は混合しているかどうかに直接対応する量なので、塩分が手元にあるなら、まずは密度基準が第一候補になります。しきい値は捉えたいシグナルに合わせて選びます。早い段階の再成層を捉えたいなら0.03 kg/m³のような小さい値、多数のプロファイルにわたる安定性のほうが重要なら0.125 kg/m³のような大きい値です。すでに公表されている気候値と並べて議論するのであれば、物理的にどれが適切かよりも、その気候値と同じ基準を使うことが優先される場合もあります。どれを選んでも一貫して適用し、必ず明記してください。
水温基準のMLDと密度基準のMLDを比べてもよいですか
その海域にbarrier layerがあるかを確認してからにしてください。塩分による成層が弱い海域では、2つの基準はよく一致します。塩分躍層が水温躍層の上にある海域では水温基準の値がはるかに深くなることがありますが、この差は平均でならすべき誤差ではなく、そこにbarrier layerがあることを示しています。
基準深度で本当に結果が変わりますか
変わります。とくに夏のプロファイルでは、想像以上の差が出ることがあります。10 mを基準にすると、その上にある表層付近の成層は判定に入りませんが、5 mを基準にすればその分も判定に加わるので、しきい値に早く達し、混合層は浅く出ます。したがって、しきい値が同じでも基準深度が違えば、2つの研究の値をそのまま比べることはできません。
MLDが未定義になったプロファイルはどう扱えばよいですか
未定義のまま保持し、統計から明示的に除外してください。何本が未定義になったかを数えること自体にも意味があります。MLDが未定義となるプロファイルが多い海域では、多くの場合、物理的な原因よりもサンプリング上の問題を疑う必要があります。
圧力を深さへ換算する必要はありますか
しきい値の計算には必要ありません。しきい値は単調な鉛直座標であれば成り立ちますし、Argoが測っているのは圧力です。換算するのは結果をmで示す必要があるときだけで、その場合は緯度を考慮した換算を使ってください。


