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T-S図をいくつか見比べると、データ点が均等には散らばっていないことに気づきます。一部の亜熱帯海域では、多くの点がほぼ同じ水温・塩分のところに集まり、密集した塊を作ります。こうした密集は、モード水の特徴として現れることがあります。広い海域の海水を密度階級ごとに集計すると、モード水に対応する階級が高い頻度で現れます。ただし、点の密集や地理的な位置だけでモード水と判断することはできず、密度や鉛直構造も確認する必要があります。

この記事の前に、海洋学のT-S図を読み解く:実例付き と 海洋の混合層深度(MLD)とは?求め方と季節変化の読み方 に慣れておくと理解しやすくなります。

モード水とは何か

「モード水(mode water)」という名前は統計学に由来します。海水を大量にサンプリングして水温・塩分(あるいは密度)ごとに集計すると、特定の密度階級だけが際立って多く現れ、分布に一つの山、つまり「モード」ができます。モード水とは、その山に対応する水のことです。

物理的には、モード水は水温・塩分の鉛直勾配が弱い厚い層であり、その層の中では密度が深さに対してゆっくりとしか変化しません。これは、同じく成層が弱い表層の混合層とは異なります。混合層は海面に直接接し、季節的な性質を持つのに対し、モード水は冬の間に表層の混合層として形成されたのち、新しくできた季節躍層に覆われ、その年の残りの期間は亜表層に残ります。

モード水はどのように形成されるか

モード水の形成は、繰り返される季節サイクルに沿って進みます。

冬:深い混合が厚く一様な層を作る

黒潮続流のような強い流れが再循環する、亜熱帯循環の極側の縁など、冬に大気への熱損失が大きい海域では、表層の冷却と風による混合によって混合層が大きく深まります。これは、海洋の混合層深度(MLD)とは?求め方と季節変化の読み方 で説明した、冬に深くなるMLDと同じ過程です。その結果、水温・塩分・密度がほぼ一様な厚い層ができます。

春・夏:層は消えるのではなく蓋をされる

春になり太陽による加熱が再開すると、この冬の層の上に、新しく浅い季節混合層と季節躍層ができます。ただし、冬の層そのものが消えるわけではなく、新しい季節躍層の下で大気からの直接的な影響を受けにくくなり、冬の終わりと同じ弱い成層を保ちながら亜表層に残ります。

移流:形成域を越えて広がる

海洋循環によって、この季節躍層に覆われた水は形成域の外へ運ばれます。そのため、モード水はもとの形成域からかなり離れた場所でも見つかります。表層に目立った特徴のないプロファイルでも、その下にモード水の層が見られることがあります。

モード水の見分け方

モード水は、単一のしきい値ではなく、ある密度範囲内での弱い成層によって定義されるため、識別には通常いくつかの基準を組み合わせます。

密度範囲

それぞれのモード水には、形成域で冬に混合したときの水温・塩分条件を反映する密度範囲があります。OceanGraphが使うのは、0 dbar基準のポテンシャル密度偏差(σ0)です。TEOS-10に基づき、絶対塩分と0 dbar基準のポテンシャル水温から保存水温を求めたうえで、設定されたσ0の範囲を適用します。

文献では、ポテンシャル密度偏差をσθと表記することがあります。文献の密度範囲を利用するときは、示されたσθをOceanGraphのσ0と無条件に同一視せず、計算規約と基準圧力を確認してください。

渦位

対象となる密度範囲の中で、モード水は異常に小さい渦位によって識別されます。渦位は成層の強さと回転の両方を反映する量であり、成層が弱いほど小さくなるため、適切な密度範囲内で渦位が極小になっている場所は、モード水の層があることの強い手掛かりになります。

最小層厚

厚さが小さく成層の弱い区間は偶然に生じることもあるため、層厚の下限を設けることで、モード水の層と一時的で偶発的な特徴を区別しやすくしています。OceanGraphの自動検出では、この最小層厚を10 mとしています。

地理的な範囲

それぞれのモード水は特定の海域で形成されるため、検出は通常、その種類ごとの地理的な範囲に限定されます。ただし、形成域から移流したモード水を含む可能性のあるプロファイルも捉えられるように、運用上の定義では、厳密な形成域より広い範囲を使う場合があります。

例:北太平洋亜熱帯モード水(NPSTMW)

北太平洋亜熱帯モード水は、もっともよく研究されているモード水の一つであり、分かりやすい具体例です。

  • 形成域:北太平洋西部、黒潮続流の南側の再循環域
  • OceanGraphでの検出範囲:σ0 = 25.0–25.6 kg/m³
  • 形成の仕組み:黒潮再循環域での冬の強い海面熱損失が深い混合層を生み出し、翌春の季節躍層に蓋をされることでNPSTMWとなる

形成域からかなり離れた、たとえば亜熱帯循環のより東側で観測されたプロファイルでも、その位置が再循環経路の中にあれば、深いところにNPSTMWの層が見られることがあります。これは移流の分かりやすい例であり、そのプロファイルの表層の状態ではなく、亜表層にある層の性質が、NPSTMWを識別する手掛かりになります。

北太平洋中央モード水、南太平洋亜熱帯モード水、大西洋・インド洋の対応するモード水なども、同様の仕組みで形成されます。それぞれの密度範囲には、その海域の冬の条件が反映されています。

プロファイルの中のモード水の層を読む

モード水を含むプロファイルを見るときは、次の点に注目します。

  • 亜表層区間:現在の季節混合層より下にある、水温・塩分が深さに対してゆっくりとしか変化しない区間
  • 密度:その区間の密度と、想定されるモード水の密度範囲との対応
  • 中心深度と層厚:上下端の圧力を深度に変換したうえでの中点としてOceanGraphが定義する中心深度(渦位が最小になる深さではない)と、弱い成層の基準を満たす鉛直方向の範囲である層厚

複数のプロファイルを比較すると、層の厚さや深さがその海域で一貫しているのか、プロファイルごとにばらついているのかが分かるため、一つだけを読むよりも多くの情報が得られます。

モード水とT-S図

モード水は、複数のプロファイルを一つのT-S図に重ねると見分けやすくなります。形成域と周辺の再循環経路にある多数のプロファイルを重ねると、モード水の層に対応する点が水温・塩分空間で密に集まり、はっきりしたモードを作るため、この「分布の中のモード(山)」がモード水という名前の由来になっています。

自動検出のしきい値と境界的な層

自動検出は、固定された地理的範囲、密度、渦位、層厚の基準を使います。自動検出のしきい値を満たさないプロファイルにも、薄い層や判定基準に近い特徴が存在する場合があります。こうした特徴は、研究目的に合わせて詳しく解析すると、別の分類になる可能性があります。

従来の流れ:Pythonでモード水を検出する

典型的な研究では、まずArgoの水温・塩分プロファイルからポテンシャル密度と渦位を計算します。次に、選んだ地理的範囲で密度範囲と渦位のしきい値を適用し、得られた層が最小層厚を満たすか確認します。この処理を多数のプロファイルと季節にわたって繰り返し、時系列を作ります。

OceanGraphでモード水の分布を確認する

本格的な検出パイプラインを実装する前に、まずパターンを直接見てみると効果的です。

  • 海域と期間で検索する
  • モード水の分布表示を有効にして、NPSTMWなど特定の種類を選ぶ
  • 検出された層厚を表すマーカーの色を、検索結果内のプロファイル同士で比較する
  • Visual LabのMode Watersビューを開き、対象海域の検出数や層厚の季節時系列を確認する

検出された北太平洋亜熱帯モード水の層厚でArgoプロファイルを色分けしたOceanGraphの分布表示。データレイヤーの選択メニューが開いている状態

参考ページ: