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Ocean Data Viewのオンライン版を探していたのなら、まず知っておきたいのは、webODVというブラウザ版が実際に存在することです。しかもデスクトップ版と同じアルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所(AWI)が、デスクトップ版と並行して開発しています。つまり「ブラウザかデスクトップか」は、どちらが優れているかという話ではありません。

むしろ考えるべきなのは、いま作業のどの段階にいるかです。ある海域に想定した構造があるかを確かめる作業と、論文用の断面図を作る作業は別物であり、ブラウザ型とデスクトップ型がどちらも同じように得意なわけではありません。この記事では、機能の一覧ではなく作業の内容から両者を比較します。

そもそも何を描くべきかを広く見渡したい場合は、海洋データ可視化:手法・実例・ツールで可視化の種類そのものを扱っています。

デスクトップ版Ocean Data Viewが得意なこと

Ocean Data ViewはAWIのReiner Schlitzerが開発したソフトウェアで、非商用・非軍事の研究・教育目的なら無償で利用でき、Windows、macOS、Linuxで動作します。プロファイル、時系列、軌跡データの探索と可視化に、何十年も広く使われてきました。得意なのは、次のような作業です。

  • 観測航海も形式も提供元もばらばらなデータをコレクションとして整備し、一つのデータセットとして扱う
  • 任意の航跡に沿ったカラー断面図、等値面図、property-propertyプロット
  • 手早く済む重み付き平均法2種類と、より丁寧に補間できるDIVAによる格子化
  • 導出変数(derived variables)、地衡流速の断面、差分場(difference fields)、アニメーション
  • 細部まで思いどおりに調整して、論文に載せられる品質の図に仕上げる

ブラウザでここまでできるわけではありません。最終的に論文用の断面図を作るときや、形式のそろわないデータを一度整備して繰り返し使いたいときは、ODVが適しています。

webODV:本家によるブラウザ版

webODVは、ODVの解析を2つのサービスとしてブラウザへ持ち込んでいます。

Data Extractorは絞り込みを担当します。観測点、変数、形式の選択を順に進め、結果をテキスト、ODVコレクション、NetCDFのいずれかで受け取ります。抽出はバックグラウンドで実行され、完了時に通知されるため、大規模な抽出でもブラウザのタブを開いたまま待つ必要がありません。

Data Explorerでは、サーバー上に用意されたデータセットを対象に、デスクトップ版に近い操作感で、地図、表層分布図、断面図、散布図、絞り込みなどを利用できます。また、表示状態はアカウントに保存できるため、別のブラウザからも開けます。

扱うデータセットごとに複数のインスタンスが公開されており、Argo webODV(英語)や汎用のwebODV Explore(英語)などが公開されています。構造上重要なのは、データがサーバー側にあるという点です。手元のファイルを持ち込むのではなく、用意されたコレクションを解析することになります。

Argoに特化したブラウザツール

Argoに絞れば、守備範囲が一部重なるブラウザツールがほかにもあります。

  • Euro-Argo Data Selection toolは、海域・日付・フロート・変数からGDACを絞り込み、そのままダウンロードできます。
  • Argo Fleet Monitoring dashboardでは、特定のフロートが今どこにいて、どのセンサーを積んでいて、データがどの状態かを確認できます。
  • Argovisは、Argoと関連データセットを地図から辿れるブラウザで、同じデータにAPIからもアクセスできます。
  • OceanGraphは、前処理済みのArgoプロファイルを画面上で操作しながら読み比べることに重点を置いており、混合層深度などの導出指標を地図上で確認できます。

これらは役割が一部重なっていますが、同じではありません。ダウンロードで終わる検索ツールもあれば、その場でデータの中身を見て確かめるためのツールもあります。いま開いているのがどちらかを意識するだけで、かなりの時間が節約できます。

ブラウザではできないこと

ブラウザ型が「機能が少ない」わけではありません。できないことは、もっと具体的です。

サーバーに置かれているデータしか扱えません。ブラウザツールが解析するのは、誰かが用意したコレクションです。自分のCTD観測、係留系の記録、未公開の航海など、そこにないデータセットを使いたい場合は、デスクトップ版ODVか、PythonやRで自分で書く解析スクリプトの出番です。

導出量をどこまで自由に決められるかは、ツールによって違います。デスクトップ版ODVでは、内蔵の導出変数に加えて自分で式やマクロを書いて定義し、コレクション全体へ適用できます。webODVでも導出変数の追加・編集はできますが、Argo向けの専用ツールで使えるのは、たいていあらかじめ用意された指標だけです。解析に必要な量が用意されていなければ、自分で計算することになります。

画面に表示されている内容を、そのまま書き出せるとは限りません。画像しか保存できないツールでは、断面図を資料に貼ることはできても、その値を使った次の解析には進めません。CSVやNetCDF、ODVコレクションの形式で書き出せれば、そのままODVやPythonへ渡せます。webODVのData Extractorがテキスト、ODVコレクション、NetCDFに対応しているのはこのためです。ブラウザでの作業がそこで終わるのか次につながるのかは、用意されているエクスポート形式で決まります。

あとから同じ結果を再現できるかどうかは、自分次第です。デスクトップ版ODVやスクリプトを使った作業では、コレクションファイル、スクリプト、コンテナといったファイルが手元に残ります。半年後でもそれを開いて実行し直せば同じ図と数値を作り直せますし、他人に渡して確かめてもらうこともできます。一方、画面をクリックしただけでは、ツールが表示状態を保存してくれるか、自分で手順を記録しないかぎり、何も残りません。記録を残す手間は作業中には省きやすいのですが、同じ図をもう一度作る必要が出たときに、操作をはじめからやり直すことになります。その作業に何が必要かは研究の解析環境を再現可能にする方法:Docker入門で扱っています。

セッションの上限は無視できません。ブラウザツールには、1回のセッションで読み込めるデータ量の上限があります。探索には十分でも、まとめて処理するには足りないことが多くなります。上限に達したときは、そのツールが想定している使い方から外れてきたと考えたほうがよいでしょう。

作業とツールの対応

作業適した場所
その海域に想定した構造があるかを確かめるブラウザ
1本のフロートを調べ、最近のプロファイルを読むブラウザ
ダウンロード前にGDACを絞り込むブラウザ(またはインデックスファイル)
複数の観測航海のデータをコレクションに整備するデスクトップ版ODV
論文に載せる断面図を作るデスクトップ版ODV
DIVAでの格子化や独自の導出変数デスクトップ版ODV
数千本のプロファイルに同じ解析を回すスクリプト
Argoを別のデータセットと組み合わせるスクリプト

共通しているのは次の点です。どのデータに注目する価値があるかを知りたいときはブラウザが強く、そのデータが正確に何を示しているかを知りたいときはデスクトップやスクリプトが強い、ということです。多くの場合、この順序で両方が必要になります。

OceanGraphの位置付け

Argoデータについては、表の最初に挙げた「想定した構造があるかを確かめる」段階をOceanGraphが支援します。探索は省略されやすい工程ですが、後になってプロファイルが想定と異なる、探していた特徴がない、フロートがすでに対象海域を離れていると分かれば、解析をやり直すことになります。

具体的には、海域・期間・WMO IDでプロファイルを検索し、選んだ鉛直プロファイルをその場で読み、ダウンロードしたプロファイルを並べて比較し、混合層深度などの導出指標で多数のプロファイルにわたる分布を一度に確認する、という使い方になります。

Analysis Labで比較したArgo形式の鉛直プロファイル

ODVのコレクション管理、格子化、作図を置き換えるものではありませんし、数値解析の環境でもありません。それらの前段にあたる工程であり、重いツールを何に使うかを決めるためのものです。実際の操作手順はPythonを使わずにArgoフロートデータを可視化する手順で紹介しています。個々の機能については、App GuideのSearch and Bookmark(英語)Analysis Lab: Vertical Profiles(JSONアップロード、英語)で説明しています。

ブラウザでの作業を切り上げるとき

次のような状態になったら、ブラウザでできることは一通り終わったと考えてよいでしょう。

  • そのツールにない図が欲しくなり、軸も配色も含めてどんな図にしたいかがはっきりしている。作りたいものが決まっているなら、あとは自分で描いたほうが早くなります
  • 数十本、数百本のフロートに同じ操作を繰り返している。数本を読み比べる段階は過ぎて、同じ処理を大量に適用する作業に変わっています
  • 図を読み取るだけでは足りず、値そのものを統計処理したり、別のデータと突き合わせたりする必要が出てきた
  • その図をどう作ったのかと聞かれた。共同研究者や査読者に説明するには、操作を覚えているだけでは足りず、手順が形として残っている必要があります
  • 扱いたいデータセットが、そのサービスに置かれていない。自分のCTD観測や、まだ公開していない航海のデータがこれにあたります

どれもブラウザツールの欠点ではありません。調べたいことが「どのデータを見るべきか」から「そのデータで何を示すか」へ移ったということです。ここまで来れば、デスクトップソフトやスクリプトを用意する手間も見合うようになります。T-S図一つを例に、この切り替えを具体的に説明したのがT-S図の作り方:Pythonとブラウザツールを比較です。

よくある質問

Ocean Data Viewの公式なオンライン版はありますか

あります。webODVはAWIのODV開発チームによるもので、絞り込み用のData Extractorと、サーバー上のデータセットに対してデスクトップ版の操作感の多くを再現するData Explorerを提供しています。

ブラウザツールで自分のデータファイルを使えますか

ツールによります。ここがデスクトップソフトとの構造上の主な違いです。多くのブラウザサービスが解析できるのは、そのサービス自身がホストしているコレクションです。特定の形式であればアップロードを受け付けるものもあり、たとえばOceanGraphのAnalysis LabはArgo形式のJSONプロファイルを受け付けますが、デスクトップソフトほど幅広い形式には対応していません。

ブラウザツールとODVは同じ数値になりますか

同じ元データに同じ操作を行うかぎり、扱っている値そのものは同じです。違いが出るのは導出量で、アルゴリズム、しきい値、補間方法の選択が影響します。同じ名前だから同じ意味だと考えず、文書化された定義を比べてください。

最初に開くべきなのはどれですか

そのデータが自分の調べたいことに使えるかどうかを、いちばん早く確かめられるものを選びます。たいていはブラウザツールがそれにあたり、ソフトを入れたり読み込み処理を書いたりする方法では、使えるかどうかが分かる前に手間をかけることになるためです。

ブラウザツールを使えば品質管理を省略できますか

できません。図を見ておかしくないと感じたとしても、それはデータモードと品質管理フラグの確認を済ませたことにはなりません。値を科学的な議論に使う前には必ず確認が必要で、これはブラウザで探索したかどうかとは関係なく、最終的な数値を出す作業の一部です。