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海は三次元に広がって常に変化し、海面下へ測器を運ぶだけでも多くの制約があるため、あらゆる場所と深さを絶え間なく測ることはできません。人工衛星、観測船、係留系、Argoフロートが測っているのも、それぞれ限られた場所、深さ、時刻、変数です。
地図やグラフに空白があるのは、例外的な失敗ではなく、海洋データがもともと持つ性質です。大切なのは、センサーが直接測った値、品質管理で除外された値、補間で推定された値、そして分からないまま残る部分を区別することです。
海洋観測は海全体の複製ではなく標本抽出
理想を言えば、海面から海底まで、すべての場所を連続して、物理・化学・生物に関わるあらゆる変数で測りたいところですが、一つの観測方法でこれらをすべて満たすことはできません。
現在の方法には、それぞれ得意な範囲があります。
- 人工衛星は広い海面を繰り返し測れるが、多くの場合、海中全体を直接測ることはできない
- 観測船は深さごとの詳細な測定や採水ができるが、航路と日程が限られる
- 係留系は一地点を高い頻度で測れるが、水平方向の広がりを捉えにくい
- プロファイリングフロートは広い海域で海面下を繰り返し測るが、位置と時刻は離散的になる
各方法の役割は、海の中はどうやって測る? で比較しています。一つの観測手段で海全体を測れないからこそ、異なる観測を組み合わせます。
次の模式図では、観測方法ごとに異なる測定範囲と、その間に残る空白を示しています。各観測手段の位置や到達範囲は、実際の地理・深度を同じ縮尺で描いたものではありません。

データの空白には四つの種類がある
「データが足りない」といっても、不足しているものは一つではありません。
場所の空白
知りたい海域の近くに測器がない場合があり、分布の偏りによって、プロファイルの多い海域と少ない海域が生じることもあります。
時間の空白
次に測るまでの間に調べたい現象が通り過ぎてしまうことがあり、標準的なArgoフロートがプロファイルを取得するのは約10日に一度なので、嵐、潮汐、短時間の混合をすべて捉えることはできません。
深さの空白
海面を測るセンサーから海面下の状態を直接知ることはできず、標準的なCore Argoが通常測る約2000mより深い部分も、海には広く残ります。Deep Argoは海底近くまで観測範囲を広げますが、全球観測網の整備はまだ進行中です。
変数の空白
水温と塩分は、化学・生物に関わる多くの変数より広く利用できます。Core Argoとして有効なプロファイルでも、溶存酸素、硝酸塩、pH、クロロフィルに関連する蛍光などを含むとは限りません。
複数の空白が重なることもあります。海面のデータは豊富でも海中のプロファイルが少ない、あるいは水温は十分でも酸素の測定値がほとんどない、といった状態です。
Argoが広げた観測範囲も一様ではない
Argoは全球へプロファイリングフロートを展開し、海面下を繰り返し測れる範囲を大きく広げました。それでも、海全体を連続的に覆っているわけではなく、多数の点から海を調べる観測網です。
国際Argo計画の 観測網の現状(英語) では、目標とするフロート密度に達していない海域が残ることが説明されています。当初の観測網では、季節海氷域や縁辺海の多くも対象外でした。現在は技術の進歩によって制約が小さくなり、極域、縁辺海、深層、生物地球化学へ観測範囲を広げています。
ただし、拡張がすべて完了したと捉えるのは正確ではありません。国際Argo計画の OneArgo構想(英語) でも、Deep ArgoとBGC Argoは試験的な観測網から全球規模へ拡大している途中だとされています。
現在のArgoは、次のように整理できます。
- 水温・塩分を測るCore Argoが最も広く定着している
- 極域と縁辺海のデータは増えたが、運用の難しさが残る
- Deep Argoが標準的な約2000mより深い海を補う
- BGC Argoが、限られたフロートに化学・生物関連のセンサーを追加する
品質管理は欠けた測定を作り直すものではない
センサーから送られたデータには、欠損、物理的に不自然な値、位置の問題、信頼性の低い値が含まれることがあります。品質管理は、こうした問題を見つけて除外するために行います。
その結果、残ったデータの信頼性は高まる一方、プロファイルや断面図に空白が増える場合もあります。選択した基準を満たさない値は、無理につないで曲線を作るのではなく、欠損として残すほうが適切です。
OceanGraphが表示するのは、Argo GDACに存在するすべてのプロファイルではありません。ファイルの種類、日時・位置の品質、必須変数の欠損、有効な層の割合、圧力間隔、変換時のエラーなどによって除外されることがあります。条件を満たす場合には、補正済みデータや遅延モードデータが優先されます。
具体的な条件は Data Filtering Policy(英語) に記載されています。品質管理フラグと補正済み変数の読み方は、Argoデータの品質管理ガイド で確認できます。
測定値、補間値、解析値は同じではない
海洋データ製品では、測定点どうしの間を計算で埋めることがあります。表示された数値がどの段階のものかを区別しましょう。
| データの種類 | 意味 |
|---|---|
| 直接の測定値 | センサーが特定の場所・時刻・深さで変数を測った値 |
| 補間値 | 周囲または前後の測定値から、間にある値を推定したもの |
| 解析値 | 観測データと数値モデルまたは統計手法を組み合わせ、規則的な格子へ推定したもの |
| 欠損値 | そのデータ製品の条件では利用できる値がないことを示すもの |
補間すると、不規則な間隔のプロファイルを読みやすい一枚の図にまとめられますが、センサーが新しい場所で測定したことにはなりません。もとの測定点が離れていても、色は滑らかにつながって見える場合があるため、表示の連続性と測定点の密度を区別する必要があります。
また、数値モデルとデータ同化を使えば、物理法則と観測データを組み合わせて空間的に連続した海洋の状態を推定できます。これは欠かせない方法ですが、格子上のすべての値が直接測られたものではありません。
データがないことはゼロを意味しない
図の空白には、次のような理由があります。
- その場所や深さを測器が通っていない
- 選択した変数のセンサーを搭載していない
- 品質管理で値が除外された
- 測定点が疎で、表示の補間条件を満たさなかった
- プロファイルから目的の指標を計算できなかった
いずれの場合も、対象となる量がゼロだったとは限りません。
時系列鉛直断面図では、この違いが特に重要です。OceanGraphはプロファイルを補間したあと、十分な測定値に支えられていない領域をマスクし、図に空白として残します。Limitations(英語) では、元のデータ分布、品質管理、BGCセンサーの有無が欠損域につながる仕組みを説明しています。
海洋学の時系列鉛直断面を読み解く では、空白を海中の現象と取り違えずに読む方法を紹介しています。
OceanGraphが表示する範囲
OceanGraphは、処理済みのArgoデータを探索するためのツールです。利用者はファイル処理を一から組まなくても、プロファイル、軌跡、θ-S構造、自動計算された一部の指標を確認できます。
表示を解釈するときは、次の範囲を意識してください。
- 検索結果のマーカーは、OceanGraphの収録・フィルタリング条件を満たしたプロファイルであり、その海域で過去に行われた全観測ではない
- プロファイル値を保持する圧力範囲は0〜2000 dbarと文書化されている
- 有効なプロファイルでも、BGC変数の一部または全部がない場合がある
- 鉛直断面図には補間値が含まれ、根拠となるデータが足りない領域はマスクされる
- フロートの軌跡は取得位置の並びであり、海流の流速分布ではない
- 自動計算する指標や検出結果は、定められた条件を満たさない場合には表示されない
これらは表示上の隠れた欠陥ではなく、それぞれの図からどこまで判断できるかを定める条件です。
疎な海洋データを読むための確認項目
地図、プロファイル、断面図から結論を出す前に、次の点を確認します。
- どの観測手段とセンサーから得られたデータか
- どの場所、時刻、深さを測ったか
- 表示値は測定値、変換値、補間値、自動計算値のどれか
- 品質管理によって除外されたプロファイルや層があるか
- 空白は未観測、品質上の除外、計算不能のどれを表すか
- 疑問に答えるには別の観測方法も必要か
OceanGraphでは、検索範囲、結果件数、各プロファイルの日時と位置、実際に含まれる変数から確認します。Search and Bookmark(英語) に、検索条件とプロファイル情報の項目がまとめられています。
覚えておきたいこと
海洋観測の空白は、一つの測器の性能が足りないためだけに生じるものではありません。観測範囲、深さ、頻度、変数の種類を、一つの観測手段ですべて最大化できないことが根本にあります。
測定値と推定値、ゼロと欠損を区別し、どこまで測れているかを意識したまま読むことが、海洋データを正しく使う出発点です。

